まずは「終盤の駒得」について。

将棋の格言はいろいろありますが、その中でも最も有名なものの1つが「終盤は駒の損得より速度」ではないかと思います。前ページの冒頭でも書きましたが、終盤はどちらが先に相手の玉を捕まえるかという、その1点だけの勝負になります。だから「駒を取る」という作業に1手を費やす暇があったら、その1手を相手の玉を捕まえるのに使いなさい、という格言なわけですね。

いかにも「終盤は駒の損得とかどーでもいいんだよっ!」と言いたげですが、その考え方には待ったをかけたいと思います(マナー違反だけど)。



実戦の終盤はもっと複雑な場合がほとんどですが、ここでは分かりやすい例を。

第41図。「終盤は駒の損得より速度!!」とするなら、ズバッと▲4一竜と切ることになります。……でも、図で実際に▲4一竜と切る方はいませんよね。なぜなら△同玉と取られたとき、誰がどう見ても戦力不足ですから。

図では当然、▲8一竜と駒得するのが正解。遅い攻めのように見えても、次に▲5三桂と打つのが猛烈に厳しいんです。皮肉なことに、「速度重視」の▲4一竜と「駒得重視」の▲8一竜では、▲8一竜のほうが後手玉を早く捕まえることができます。終盤は常に速度重視が良しとは限らない、というわけですね。

もちろん、第41図で先手に「角金銀」みたいに豊富な持ち駒があったのなら、その時は▲8一竜が「ぬるい手」になってしまいます。要は「今ある戦力で相手玉を捕まえられるのかどうか」の判断が重要なんです。



余談ですが、最近の話。从*^ー^)が地元の新聞の将棋欄で目にして、ハッとさせられた一文があります。

「大駒を切るのが偉いと思っている方がいるかもしれないが、それは違う。」

確かに大駒をバッサリ切ることが必要な局面もあるけれど、それは相手に大駒を渡すことでもあるので少なからずリスクが伴う。大駒を切らなくても攻めが続くのなら、地味なようでも桂や香といった駒でじわじわ責めるほうが確実で、実はそのほうが偉いのである、ということなのでしょうね。


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