大熱戦の末の勝利から1週間後の9月15日。ベスト8進出をかけた一局の相手は「はくさいシステム」チーム。


「戦い」は、一週間前から始まっていた。

対戦相手が発表されてまず最初にすることは、相手チームの棋譜並べである。この棋譜並べによって得た情報を基に、自分達の作戦を立てる。 今回は振り飛車でいこう、ということになっていたのだが、相手チームの対振り飛車がまた恐ろしかった。地下鉄飛車+端棒銀である。
ピンと来ない方は、参考図を見てください。



後手は何も変なことはしていない。ごく普通の四間飛車+高美濃の好形である。まだ駒もぶつかっていない。にも関わらず、図はすでに先手勝勢なのだ。▲9五歩△同歩▲同銀からの9筋突破が受からない。


この恐ろしい攻撃への対策に、一週間ずっと悩まされることになった。角交換して△8四歩を突けるようにしてから銀冠で端を厚くするとか、7二の銀を7三〜84に移動して受けるとか、いろいろなことを考え、相談した。それでも「これだ!」というような対策はなかなか見つからなかった。

―――――対局当日。最終的に作戦が決定したのは、実に開始30分前だったのである。



今回のオーダーは、1将ガキさん、2将亀、3将美貴様、4将安倍さん。これは予選1回戦、対武蔵オオクワグループのときと同じ順番だ。



序盤の第1図。ここは当然▲9六歩△9四歩▲6六角からの地下鉄飛車だと思っていたのだが、本譜は▲5七銀。さらに△7四歩に▲7七角。

・・・まさかの居飛車穴熊。これには頭を抱えて苦笑いするしかなかった。
これまでことごとく序盤で相手チームを悩ませ、驚かせてきた我がチームだが、今回ばかりは「してやられた」格好である。



駒組みが頂点に達しつつある第2図。次に▲2四歩△同歩▲同角△2二飛に▲3三角成△2八飛成▲4四馬で銀損になってしまうが、図で△2二飛と受けるのでは作戦負けである。
少し無理かもしれないと思いつつ、亀はここで△4六歩と突いた。プロの将棋なら別だが、アマチュアの将棋なら攻めているほうが楽っしょ、というわけだ。△4六歩以下、▲同歩△5五歩と進む。



第3図から▲6七金と上がったのが疑問。一気に穴熊が薄くなり、後手からも強い戦いを挑みやすくなった。

…とは言っても、穴熊の恐怖は誰もが知るところである。振り飛車党の亀は特に。



角の交換から先手も反撃に転じ、急所の7筋に手をつけてきた第4図。亀は△7六同歩の一手だと思っていたのだが、3将の美貴様は△6三桂。▲7五歩には△同桂が金に当たるというわけである。受け一方の手は指さないところに棋風が出ているように思えた。先手も強く▲5二銀△3一飛▲6三銀不成△同銀▲7五歩と踏み込んできた。



第5図。際どい勝負である。完全に受けきって「穴熊の姿焼き」にしてしまえば後手勝ち。攻めが途切れなくなれば、その瞬間に先手勝ち。
図から△6九銀が勝負手。相手を悩ませる意味もある。以下は▲7七飛△8五桂▲7六飛△7四銀▲同歩△7五歩。やはりギリギリの勝負だ。



クライマックスは第6図だった。
この4将のところが、唯一相手チームよりも点数が高いところ。粘り強く指せば、きっと相手も小さなミスはするはず・・・と思っていた。

―――――秒読みに追われて▲5七金。これで流れが変わった。
形勢自体はまだまだ難しいのかもしれないが、「悪手は悪手を呼ぶ」という言葉もあるように、一度慌ててしまうとなかなか気持ちを落ち着かせるのは難しいものだ。



第7図からは△8八と▲同玉△7六桂(ここで4将から1将にバトンタッチ)▲7九玉△7八銀▲同玉△8八飛▲7九玉△6八飛成までの即詰みで後手の勝ち。とうとうベスト8進出である。



楽しんで指したい、と前に書いた。
最初は負けても楽しめればそれでいいか、と思っていたのだが、ここまで来ると気持ちも変わってくる。負けたところを想像したことも何回かあるのだが、想像の中の亀はいつも悔しがっていたのだ。

勝ちたい。将棋を指す者なら当たり前すぎる欲求だが、亀は久々に「勝ちたい」という強烈な欲求を持った。
4人で創り上げる将棋は、負けると4倍悔しい。勝てば4倍嬉しい。もし叶うのなら、4倍の嬉しさを、もう少しの間だけ味わい続けたい。



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