―――――昨年10月6日のことは、今でもまだ鮮明に覚えている。

長い長い夏が終わりを告げた瞬間、開けっ放しだった窓から入ってくる空気は急に冷たく感じられ。そして遠くからは消防車のサイレンの音が聞こえてきたのだった。甲子園の試合終了のときみたいだ、なんてボンヤリ思って、そのサイレンの音は特に強く印象に残っている。


あれから9か月。自分は再びリレー将棋に帰って来れた。ガキさん、美貴様、安倍さん……去年一緒に戦い抜いた、大切な仲間と一緒に。

3人だけではない。今年は去年以上に、応援してくれる人達がたくさんいる。苦しい時、観戦者の欄に目をやると見慣れた名前がある、応援してくれている人がいる……それがどんなに心強いことなのか、去年参加してみて初めて知ることができた。

まさに文字通りの「モ娘(狼)軍」。決して視界良好というわけではないけれど、しっかりとスタート地点に立つことができた。

ただいま、リレー将棋。



正直に言うと、自分を悩ませているものがあった。1つではなくて、2つも3つも。

1番大きかったのは、去年のベスト8という結果。今年はさらに上を…という期待を受けるのはある意味当たり前だし、自分自身でもそのことを意識せずにはいられなかった。 そのことが「予選落ちしたらどうしようか」という恐怖感に繋がっていたのは、恥ずかしいけれど否定できない。

その恐怖感に拍車をかけるかのように、自分は将棋の調子を崩していた。言い訳すると、将棋に集中しきれない状態が続いていたのである(この文章を書いている、その瞬間も)。
時には中盤で必勝形になってからいきなり手が見えなくなって大逆転負けを喫したり、結構な重症。

そんな泥沼状態から多少なりとも抜け出せたのは、やはりあの言葉のおかげで。


―――――そうだ、去年あんなに「楽しむ」を連呼してた自分はどこに行ったんだ。


思い出してみれば、スランプの時の自分は「どうすればこの将棋に勝てるか」を考えていて。調子がいい時の自分は「どうすれば気持ちよく捌けるか」を考えていて。そして、前者のとき将棋は自分にとって厳しいもので、後者のとき将棋は自分にとって楽しいものだった。


―――――やっぱり楽しもう。ついでに、1年間で成長した自分を見せてやろう。


今の自分は、1年前の自分からずっと成長できた。棋力は分からないけれど、精神的な部分で。これは自信を持って言える。
自分だけじゃなく、ガキさんも、美貴様も、安倍さんも、去年とは一味違う3人だから。胸張って指せばいいじゃん。

……なんてプラス思考が素早くできるようになったのも、自分が大きく成長できたところかもしれない。


何よりも、我が軍には自慢のチームワークがある。今年はメンバーそれぞれが忙しくて作戦会議もあまりできなかったけれど、自分はほとんど心配していない。
この3人と一緒なら絶対に大丈夫、と自然に思ってしまう何かが、目に見えないところで存在しているのだ(自分は申し訳ないくらい頼りないですけどね)。


そんな頼もしい仲間達と共に、いよいよ出陣―――――


inserted by FC2 system