モ娘(狼)軍の今年の開幕戦は7月13日(从*・ 。.・)の誕生日)。相手は、居飛車対四間飛車の研究サークルからの出場チーム、「kaedetsu2」。当然、相手の研究範囲にはハマらないようにということで作戦は練られた。
対局当日。天気の良い穏やかな日で、昼ごはんは自転車をこいで某コーヒーショップに食べに行った。
これにはちょっとした意味がある。去年の10月6日の夕方、自分はやはり同じコーヒーショップに向かっていたのだった(去年は実家だったので、場所は違うけど)。けれども、店の目の前まで来て自分は立ち止まった。
……飲み物すら喉を通らないであろう状態なのに気付いた。緊張のあまり。
結局、そのまま家に戻ってしまった。そしてその日の夜、モ娘(狼)軍の夏は終わってしまったのだ。今でも回想するとほろ苦くなる思い出である。
そんなわけでこの日の昼ごはんは、そのほろ苦い思い出を消し去るという意味で重要なものだった。決していつも通りにというわけではないけれど、しっかり食べて、しっかり飲むことができた。ここで少し自信が出たような気がする。
そして夜9時、いよいよ対局開始。こちらのオーダーは1将から順にガキさん→安倍さん→亀→美貴様。相手チームは3将が2000点台で、他のところはこちらのほうが点数は上という状況だった。自分が2000点台相手に持ちこたえられるか、というところが焦点になりそうだ。
こちらの先手で相掛かりの出だしとなり、第1図。何気なく突いた△6四歩に対し、ガキさんがすかさず反応する。
▲2四歩△同歩▲同飛△1四歩▲4七銀△6三銀(第2図)
▲2四歩△同歩▲同飛が機敏な動き。▲2三歩と▲6四飛を見せて一本取ったか…と思っていたのだが、△1四歩に対しガキさんは▲4七銀。このあたりが実戦心理の難しいところなのかもしれない。
追記 ▲6四飛には△2八歩がありました。アホすぎてごめんなさいorz
数手後の第3図。作戦の岐路だが、相談の結果後手が端歩にかけた3手を緩手にするべく速攻狙いの順を選ぶ。
▲3六銀△3四歩▲6六歩△6五歩▲7七銀△1三角▲6五歩△4六角▲6八銀△3三桂(第4図)
▲3六銀と出て、次に▲2五銀〜▲2四歩を狙う。後手は角頭を狙われている格好なので△3四歩とし、角を交換して△2二銀と補強する手を狙う。先手は、そうはさせじと▲6六歩。以下しばらくの戦いは、角をいじめるか捌くかというところが焦点になっている。
2将の安倍さんから3将の亀にバトンが渡った局面が第5図。△6五歩は第一感あまりよくない手というのが狼軍の印象だった(黙っていても▲5五銀とか▲5五金と出たかったところなので)。
もう一度状況を確認すると、相手チームは3将が2000点台、1、2、4将の点数はこちらが上である。自分が形勢を離されないように耐えることがそのまま勝利に繋がると信じて、戦場に向かった。
第5図から▲5五金△3五角▲4四歩△同歩▲1五歩△同歩▲5四金△同歩▲6三銀(第6図)
15分の持ち時間はすでに使い切り、1手60秒の秒読みに入っている(交代の際に持ち時間1分が追加されるけど)。
秒に追われて▲6三銀。舞台裏1でも書いたが、自分は将棋の調子がかなり悪い状態だった。棋風的にも、こういうズッシリした手よりも軽快な手のほうが好きなタイプだ。たぶん普段の自分なら、▲6三銀は死んでも指したくない手、って言うんだろう。
でも、そんなことは言ってられなかった。ただがむしゃらに指すしかなかったのである。
△6六金と打たれた第7図。次に△5七金と入られては先手陣に火がついてしまう。ここでも自分は指した。普段の自分が見たら吐き気を催すような手を。
▲6六同角△同歩▲3六金(第8図)
バッサリ角を切って▲3六金。我ながらよく指したものだと思う。もっとも、調子が悪い状態ではこれくらいしか手が見えなかったのだけれど。
▲3六金に△2四角は▲2五歩といじめて、△1三角なら▲1七香、△2五同桂なら▲同金△3三角▲2六桂と攻め続ける狙い。
本譜は第8図から△7七歩▲同桂△2一玉(▲6四角の王手飛車を避ける)▲3五金△同歩▲1二歩と攻め続け、そのまま4将の美貴様にバトンを渡すことができた。死んでも指したくないような手でも、吐き気を催すような手でも、かなりの満足感があったのを覚えている。
あとは仲間を、勝利を信じ続けるだけ。
第9図からも攻撃は続く。
▲6五銀△7二飛▲6三馬△7一飛▲7二歩△3一飛▲5四銀△同金▲同馬△4三銀▲同馬△同金▲5二銀△4二金▲4三歩(第10図)
手順に後手の飛車を封じ込め、絶好調である。△4三銀に対する▲同馬、そして銀を取らせる▲4三歩は見ていてかなりびっくりしたが、一方的に攻め続けることができそうな展開に見える。第10図から△5二金で作戦会議となり、4人とももうすぐ勝利の瞬間が訪れるであろうことを信じて疑わなかった。
そして……第10図から△5二金▲4二金△3四角(第11図)
△3四角。作戦会議で4人とも気付いていなかったこの角打ちが一瞬にして流れを変えてしまったのを、直感的に悟った。▲5二金は△6七銀と打ちこまれて、あっという間に一手負けコースである。楽勝ムードが一転、苦戦を強いられることになった。
第12図の▲4二銀は、実戦的な勝負手。詰ませられるものなら詰ましてみろ、というわけだ。実際に即詰みはあったのかもしれないが、先手も踏み込むのは多少なりとも怖いところ。△3二金と受けてきた。
第13図。後手玉はハッキリ寄らない形。正直、これはもうダメだと一瞬思った。けれども必死で指しているガキさんのこと、仲間たちのことを考えると、最後まで諦めちゃいけないんだという気持ちになって。いつの間にか、手を組んで逆転を祈り始めていた。
果たして、奇跡は起こるのか。
第14図で作戦会議となり、ガキさんから安倍さんにバトンタッチ。残酷だけれども、形勢は先手敗勢である。
ふと、去年のことを思い出していた。予選第2局。負ければ予選落ちという状況で、狼軍は敗勢に追い込まれていた。そんな中、ドラマが起こったのである。結局、予選落ち寸前のところから狼軍はベスト8まで勝ち上がった。
…あの時みたいな奇跡をもう一度起こしたい。いや、起こさなければ。
第14図から▲3一銀不成△7八馬▲同飛△同角成▲同玉△6六金(第15図)
作戦会議で出た結論は▲3一銀不成。先程と同様、「詰ませられるものなら詰ましてみろ」である。
もちろん、相手チームが作戦会議で詰みを読み切っていたらそのまま終了する。けれども望みは捨てなかった。
そして―――△6六金。
「さあっ、もうひと勝負!」
思わず言葉が出ていた。…直感的に、逆転の筋が残されているかもしれない、と思っていたのだ。
第15図から▲2二銀右不成△2四玉▲2五歩△同玉▲5八角△2六玉▲4九角打(第16図)
▲2五歩に△同玉がまずかったらしい。▲5八角が攻防の名角。△2六玉にはさらに▲4九角打。いつのまにか先手玉の詰めろは消え、いつのまにか後手玉には詰めろがかかっている。背筋がゾクゾクッとなるのを感じた。
第16図から△3六歩▲6一飛成△6七歩▲2七銀△3五玉▲3六銀△3四玉▲6七角△4五歩▲6六竜(第17図)
▲3六銀△3四玉に▲6七角。調子が最悪で手が見えていなかった自分にも、はっきりと分かった。ついに引っくり返ったのだ。
まさに神懸かり的な逆転劇。安倍さんの指し手は神が乗り移ったみたいで、相手は何かに導かれるかのように逆転へと繋がる手を選んでしまった。
それだけでは終わらなかった。神懸かった逆転劇の興奮も冷めやらぬうちに、神懸かった結末が待っていたのである。
第17図から△4八飛▲6八歩△4三玉▲7六角△5四歩▲同角△同玉▲7六角(第18図)
自陣に放たれた2枚の名角が、最後にもう一度舞った。あまりにも鮮やかすぎる結末だった。第18図からは△6五歩▲同竜△4四玉▲5四竜まで、後手投了。
信じられないような逆転勝利。昼ごはんをちゃんと食べれたことなんかも一因なのかもしれないけれど、やっぱり最後まで諦めずに指し続け、祈り続けたメンバーの気持ちが起こした奇跡なんだろうと思う。
そしてもう1つ。数日前に自分がメンバーとしていたある「約束」―――勝ったら○○します!と宣言していた―――が、奇跡の欠片程度にでもなっていてくれたら嬉しいなあ、なんて思っている。
約束の内容は……知っている人だけが知っていれば、それでいいんです。