奇跡的な大逆転、そして2700点の壁を突破───2連勝で予選を突破した狼軍は本選1回戦がシードとなり、2回戦(ベスト32)に駒を進めた。

間に予選の3回戦と本選の1回戦が入るため、1か月以上間が開くことになった。予選の時に調子が最悪だった自分としてはありがたいところだが、その1か月で状態がバッチリ回復したとは恐らく言えないだろう。相変わらず終盤に手が見えなくなることはあった。

ただ、その状態から早く抜け出そうとして何かする、ということはしなかった。ジタバタしてもしょうがないのだ(自分は、自分自身が思っている以上に調子の波が激しいということに最近気付いた)。大事なのは、その時その時で出せる力を全て出し切ること。



2回戦の組み合わせ発表の日。対戦相手は、2000点越えの強豪を2人抱えるディオ@ワトソン隊と分かった。実はこのチーム、メンバーは少し変わっているが去年のリレー将棋で準優勝しているのである。自分はそのことを全く知らず、対局が終わってから教えられてビックリした。たぶん、先に知っていたら自分は委縮していただろう…。


リレーからは話がずれるが、対局1週間前に自分はちょっとした「嵐」を巻き起こしてしまった。狼将棋全体の問題を話し合って、変えれるところは変えよう、と提案したのだ。提案してしまってから、ちょっと心配になった。……これで狼がバラバラになったりしたらどうしよう。

それでも、大丈夫だろうとも思った。根拠も何もないけれど、狼の人たちはこれくらいでバラバラになるようなことはないだろうと。実際、本音で話し合うことで以前よりもいい雰囲気が生まれたと思う。そのいい雰囲気の中でリレーに臨めたのは、とっても嬉しかった。



9月13日、対局当日。夕方、いつものようにアイスコーヒーを飲みに行き、ついでに祝勝会用の飲み物食べ物を購入。夕方までは緊張することも全くなく、普通に過ごせていた。
…が、やはり直前になると緊張はしてしまうもので。まあこれも将棋の調子と同じく、何とかしようとして何とかなるものではない。緊張している状態がむしろ「平常」なのだと思うことにしている。
対局中にちょっとずつ飲もうと用意していた缶のりんごジュースは、始まる前にすっかり空になってしまっていた。


開始直前までガキさんの反応が途絶えたり、相手チームのメンバーが1人来なかったりと、色々とバタバタしたものの無事に対局開始。狼軍のオーダーは美貴様→亀→安倍さん→ガキさん。相手チームは2将と3将が2000点代なので、前回と同じく1将でリードを奪おうという作戦を練っていた。

初手から▲7六歩△3四歩▲6八飛△8四歩▲8六歩△6二銀▲4八玉△4二玉▲7五歩△8五歩(第1図)



前回の初手▲4六歩に続き、今度は角頭歩の奇襲。完璧に対応されると苦しくなるのは目に見えているけれど、美貴様の腕力やリレー独特のプレッシャーがあればそれも簡単なことではないだろう、というわけである。
前回と同様、開始早々に戦いが始まった。

第1図以下▲8五同歩△同飛▲2二角成△同銀▲7七桂△8二飛▲7四歩△3三銀▲7三歩成△同銀▲8八飛△8七歩(第2図)



…相手は巧かった。恐らく相当なプレッシャーがあったであろう、その中でのほぼ完璧な対応。これはまずいか、と思った。
▲8七歩も先手の注文に乗らない、冷静な手だが、▲8六歩とふんわり垂らすのがより厳しかったようだ。「今すぐ厳しい手」よりも「次に厳しい狙いがある手」のほうが厳しくなる、という例である。

第2図以下▲7八飛△4五角▲5八金左△2七角成▲8三歩△同飛▲6五桂△6四銀▲7二角(第3図)



▲7八飛と逃げて、好機での▲6五桂を狙う(△8六歩に対しては、当然ながら▲7八飛とはできなかった)。
▲8三歩△同飛をきかして▲6五桂。ここで△6四銀は最も自然な手であり、そして疑問手だった。ここまでほぼ完璧な対応をしていた相手の1将だったが、最後の最後に待ち望んでいたチャンスボールが来た。

作戦会議を挟み、バトンを受け取った亀はすかさず▲7二角。駒音高く(?)打ち下ろしたこの角が痛烈である。

第3図以下△8八歩成▲8三角成△7八と▲6一馬△7九と▲7二飛△5二銀▲同馬△同金▲6一銀△6二角▲5二銀成△同玉▲7九飛成(第4図)



△8八歩成(▲同銀なら△7七歩)には一直線に駒を取り合い、相手よりも一手早く▲7二飛の打ち込み。さあこれでどうだ、と自信満々で後手の着手を待っていたその時、思わぬハプニングが。

リソース不足によるPCトラブル発生しました

何が起きたのか理解するのに数秒かかった。24の控室のほうも同時に立ち上げていたとは言え、まさにこのリソース不足を避けるために他のプログラムは全部閉じていたし、前回までは同じ条件でリソース不足なんて一度も起こらなかったのである。謎すぎる…。
慌ててログインし直し、すぐに対局は再開できたが、再びリソース不足になったりしないかどうかが心配で将棋のほうに集中しきれなかったorz

肝心の将棋のほうは、▲7二飛△5二銀に馬を切って▲6一銀から金をはがし、後手には自陣に大駒を使わせてポイントを稼いでから悠々▲7九飛成。これで断然優勢だなんて思っていたのだが、実際は6五の桂を取られると駒損になることもあり、だいぶ難しい形勢だったようだ。大局観が甘い…。

また、▲7二飛△5二銀にはジッと▲6二飛成も有力だったらしい。次に▲5一金と打てば、後手玉はほとんど受けがない。△8八歩成のあたりから本譜のような順しか描いていなかったので、一気に寄せに行くという発想が全くなかった。ここも甘い…。

第4図以下△7八歩▲同竜△6五銀▲2二歩△2六飛▲2一歩成△7七歩▲8八竜△8六歩▲2八歩△4九馬▲同玉△8七金▲7二金△8四角(第5図)



▲2二歩と、ゆっくりでも確実に攻める。竜の守備力が絶大なのでこれで大丈夫だろうと思っていたが、△2六飛は見えていなかった。次に△4九馬▲同玉△2九飛成が厳しい狙いになる(すぐに行くと後手玉も危なくなるが)。適当な受けも見当たらないので、開き直って▲2一歩成。
本譜は△7七歩▲8八竜に△8六歩だったが、対局中は△4九馬▲同玉△2九飛成と踏み込まれる順を読んで震えていた(この瞬間、後手玉はかなり危ないが恐らく詰まない…と思う)。以下▲2八金△3八銀!▲同金△2六桂(変化1図)。



かなり際どい。▲2七銀でもしかしたら凌げているのかもしれないが、△3八銀のところ△3八金だとまた話が違ってくるし…。このあたりは、自分の終盤力ではとても読み切れない。ましてや秒読みだし、相手にとっても相当に怖い変化ではある。

本譜は△8七金が2手スキになっていない(次に竜を取られても詰めろにならない)ので、▲7二金と打って先手が勝てそうな形勢。△8四角と逃げられた第5図で安倍さんにバトンタッチとなった。

第5図以下▲6一角△4二玉▲8七竜△4四銀▲2二と△3三玉▲3六桂△3五歩▲3二と△3四玉▲4二金△5四銀▲8六竜△3六歩▲同歩(第6図)



▲6一角△4二玉に▲8七竜と金を取るのがぴったり詰めろ。これはもうすぐ終わるだろうと安心しきっていたのだが、相手も簡単には諦めない。▲4二金に△5四銀と味良く受けられたあたりなどは見ていてハラハラしたのだが、安倍さんなら大丈夫、と信じ続けた。このチームのメンバーとは今まで何百局と指してきて、その強さはよく分かっているつもりだから。
▲8六竜や第6図の▲3六同歩など、さすがの落ち着きぶり。

第6図以下△4五桂▲4三金△同銀▲3五歩△同銀▲2六竜△5七桂不成▲同金△同角成▲3三飛△4五玉▲5六金△同馬▲3五飛成(第7図)



最後は綺麗に寄せが決まった。第7図から△5四玉(ここで4将にバトンタッチ)に、ガキさんが▲5六竜△6四玉▲6五竜寄とトドメを指した。



「「「「乾杯!!」」」」

恒例となった、検討盤での祝勝会。一週間前から対局の時まで慌ただしい状況が続いてしまったが、それだけに掴み取った勝利や、10人以上の方達に祝ってもらえた祝勝会はいつも以上に嬉しいものだった。台風が通り過ぎた後には、綺麗な青空が残るように。

次に勝てば、去年到達したベスト8。いつものように緊張はしてしまうだろうけれど、いつものように仲間を信じて、そして心強い応援を力にして、全力で指すだけ。



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