7月19日、日曜日。新生狼軍の初陣の日である。

昼前までたっぷり眠って起床すると、外は雨が降っていた。ここ最近はほとんど毎日のように雨が降っていたが、今日くらいは晴れてほしかったな、と思う。

シャワーを浴びてから、昼食をとるため外へ。気分、移動距離、リレーへ向けてのゲン担ぎ……色々と悩んだ結果、リレーの日の恒例となりつつある某コーヒーショップに向かった。まだ緊張はほとんどなく、最近お気に入りのメニューをサクッと完食。…どうせ夜には緊張してくるのだから、今はリラックスしていたほうがいい。

家に戻ってからは将棋のことはあまり考えず、音楽を聴いたりして気持ちの面でのコンディション作りに専念する。そうしているうちに、外の雨も止んでいた。

準備は万端。



最初の対戦相手は、2000点台2人を擁する「風林檎火山」チーム。いきなりの強敵だが、逆にここで勝てば勢いに乗ることができる。狼軍は、1将からリンリンさん→れいなさん→よっすぃーさん→亀の布陣で臨んだ。


▲7六歩△8四歩▲6六歩△3四歩▲6八飛△6二銀▲7八銀△4二玉▲4八玉△3二玉▲3八玉△5二金右▲5八金左△8五歩▲7七角△5四歩▲2八玉△9四歩▲1八香△4二銀▲1九玉△5三銀左(第1図)



午後9時、狼軍の先手で対局開始。

相手チームのオーダーを見て振り飛車で来るはずと予想していたのだが、2手目△8四歩で早くも予想が外れる。リンリンさんは四間に飛車を振り、▲1八香と穴熊を目指した。この作戦は完全なリンリンさんのアドリブなのだが、いい判断だと思った。穴熊は、「負けにくさ」が重要なリレー将棋とは相性抜群の作戦なのだ。
後手は△4二銀〜△5三銀左と繰り出して急戦の構え。

第1図以下▲2八銀△7四歩▲3九金△6四歩▲4八金寄△1四歩▲9八香△1五歩▲9六歩△5五歩▲6五歩△同歩▲同飛△5四銀▲6四飛△6三銀上▲6九飛△6五歩(第2図)



▲2八銀〜▲3九金まで組めばひとまず穴熊は完成。あとは強気に戦うことができる。△1五歩で30手となり、2将のれいなさんにバトンタッチ。

先手陣のポイントとなるのは7八の銀で、この銀を▲6七銀〜▲5六銀と活用していくか、7八に置いておくかが悩ましい。前者は自分から積極的に動いていく狙いで、後者は△6五歩のような相手からの仕掛けを封じる(▲同歩△7七角成に▲同銀で何でもない)狙いである。

れいなさんは後者を選び、△5五歩に対してはすかさず▲6五歩。
△5四銀にいったん▲6四飛と浮いて△6三銀上を強要したのは細かい動き。銀が斜めに二枚並ぶのはあまりいい形ではない(5三の地点が弱点になる。5四銀、5三銀と縦に並ぶのが理想形)が、後手は押さえ込みを狙うために金銀を前に出したいところでもあるので、損得は微妙なところ。

後手は△6五歩と押さえ、徐々に先手陣を圧迫してくる。いくら穴熊が堅いとは言っても、手も足も出せない状況になってしまっては何の意味もない。2000点台のエース相手に、れいなさんはどう手を作っていくか。

第2図以下▲9七桂△6四銀▲8六歩△同歩▲8九飛△7五歩▲8六飛△同飛▲同角△8八飛▲8四飛△6三銀▲7七銀△9八飛成▲8一飛成△7八龍▲9一龍△5六歩▲6八銀△7六龍(第3図)



▲9七桂が面白い一手。△6四銀に▲8六歩△同歩▲8九飛となってみると、これは十分に手になりそうである。見事な手の作り方だった。

△7五歩に対して実戦はすかさず▲8六飛とぶつけたが、ここは他の手も少し考えてみたかったかもしれない。例えば▲3六歩(△3五桂のような相手の攻めを消しつつ、▲3五歩の玉頭攻めも狙えるようになる)と待っておいて、△7六歩と取りこんできたらその瞬間に▲8六飛(変化1図)とぶつけるのである。



変化1図から△同飛なら▲同角が6四の銀に当たるし、△7七歩成▲8二飛成△7八と▲8一竜の攻め合いも穴熊の必勝パターン。ただ、▲3六歩の待機に必ず△7六歩としてくるとは限らないし、綱渡りのような危なっかしい順でもあるので、実戦で、特にリレー将棋では踏み込みにくいところだろう。

本譜は飛車交換になって穴熊的には大満足な展開だが、△7五歩の効果で▲8六同角が銀取りにならないのが少しつまらない。先手陣に遊び駒が多いのもあり、決して先手良しとは言い切れないのだと思う。

とは言え、形勢はかなり難解。相手が2000点を超えていることを考えると、れいなさんは十分すぎるくらいの仕事をした。

第3図以下▲8一龍△6六歩▲2六香△5一香▲7七歩△6五龍▲5六歩△6七歩成▲同銀△同龍▲4六桂△4五銀▲6五歩△同龍▲8五桂△6九龍▲6二歩△同金▲8二龍△7二金▲8一龍△4四角▲9三桂成△5七歩▲9四成桂△5八歩成▲3八金寄△4九と▲9五角△6二歩(第4図)



第3図で60手となり、3将のよっすぃーさんにバトンタッチ。

▲2六香(次に▲2三香成△同玉▲4一竜の狙い)は急所の一着だが、△5一香と受けられた形はかなり堅い。相手の攻めをとことん手抜きして攻め合い勝ちを目指せる穴熊に比べて船囲いはどうしても薄く見えるが、△5一香のように補強しながら戦うと、そうそう簡単には潰れないのだ。

△6七歩成となり、先手もゆっくりしていられない。どうやって相手玉を寄せればいいだろうか…と必死に考えていた時、事件が起こった。

「@MoMusuGunさんはダウンしました」

なんと、指していたよっすぃーさんの接続が切れたのだ。どうやら雷が鳴り続いていた影響らしい。そして困ったことに、対局を再開してもまたすぐに接続が切れてしまう。

具体的に何回中断したら負け、という規定はなかったと思うが、さすがに何度も何度も中断してしまっては相手チームに申し訳ないし、指しているよっすぃーさんだって将棋どころではないはずだ(自分も去年に一度だけ接続切れを経験したが、その後は全く将棋に集中できなかった)。形勢も徐々に苦しくなっているし、これは途中で棄権(投了)も考えなければいけないだろうか…と思い始めた。

中断。再開。1手か2手だけ進んでまた中断。再開……こんな調子で、ゆっくりゆっくり、交代の90手へ向かっていく。棄権したほうがいいのだろうかという思いと、どうか90手目まで進んでほしいという思いが交錯する。


もう何回目の再開だっただろうか。ついに決断して、相手チームに話し合いをしたいと伝えたちょうどその瞬間、相手が90手目の△6二歩を指していた。4将の亀にバトンタッチとなる。

―――――タスキがつながりますように。

リレーの対局がある日、24席主の久米さんはトップページに時々こう書いている。いつもは読み流していたこの一文の意味が、この時本当の意味で理解できた。

勝ち負けはもはやどうでもいい。完走できることが、最後まで対局を続けられることが、何よりも嬉しかった。

第4図以下▲8三成桂△同金▲同龍△3五桂▲4九金△同龍▲3九金打△5八龍▲9二龍△4七桂成▲同金△同龍▲6二角成△同角▲同龍△5二金打▲7一龍△4六銀▲4四歩△同歩▲3六桂△3五銀(第5図)



とても将棋に集中などできないような状況の中でも、よっすぃーさんはずっと遊んでいた角を活用するという戦果をあげた。将棋は全ての駒を働かせ、遊び駒があれば活用し、そうして勝つゲームだと自分は思っている。

形勢は苦しかったけれど、自分なりに最善を尽くすことができたと思う。遊んでいた成桂と角を捌ききり、▲4四歩と嫌味をつける。ほんの少しでも相手に嫌だな、気持ち悪いなと思わせる手を指すのが逆転への第一歩になる。

しかし、最後の▲3六桂は余計だった。△3五銀と味良く受けられ、次の△4六桂〜△3八金の分かりやすい攻めまで生じてしまった。桂を打たずに単に▲6二歩で勝負するべきだったと思う。

第5図以下▲6二歩△4六桂▲4二歩△同金寄▲6一歩成△3八金▲5一と△2八金▲同玉△3八銀▲1九玉△3九銀不成(第6図)まで、後手の勝ち。



▲6二歩、▲4二歩と必死に迫ったが届かず。最後は1将のリンリンさんが投了ボタンを押して、惜しくも初戦を白星で飾ることはできなかった。


雷による接続切れというアクシデントはあったが、棄権せず盤上で決着がつくまで指し続けられたのが何よりも嬉しかった。将棋の内容も、4人全員が全力を尽くし、2000点台2人のチーム相手に善戦できたと思っている。

予選2回戦は8月2日。全員が持っている力を出し切って、全員が納得のいく将棋が指せればと思う。



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