初戦に敗れた後の二連勝で予選を通過した狼軍。思い返せば、初めてリレーに出場した2年前も初戦に敗れ、予選落ちも覚悟した状況からの予選通過だった。あの時のような快進撃を、今年もできるのだろうか。

メンバーを一新した今年、亀はできるだけ去年までの結果にとらわれないようにして、一局一局を楽しく指したいと思っていた。もちろん、一局でも多く勝って一局でも多く指したいという気持ちはあるけれど、ベスト8までは、ベスト4までは、と考えてしまうとどうしても楽しむ余裕がなくなってしまう。

予選2回戦で勝ったときは1勝できたんだから十分だと考えたし、次も勝った時は予選を通過できたんだから十分だと考えた。それによって、余計なプレッシャーから解放されることができた(それでもやはり緊張はしてしまうけれど)。



本選1回戦の相手は「チームこがも」。予選3回戦の相手と同様に全員が1000点を超えているが、今回は2000点を少し超えているメンバーも一人いる。

去年までは2000点というだけで大きな脅威を感じていたが、そのレベルの人達と指す機会が増え、自分自身も少しずつではあるがそのレベルに近付くことができるようになってきて、2000点の相手に対する恐怖感はだいぶ減ってきた(2200点とか2300点になると怖いけれど)。それに、3将のれいなさんは2000点くらいの相手なら全く互角に渡り合えるはずという安心感もあった。


8月29日、対局当日。発表されたオーダー表を見て、あれ〜、と思った。相手は今までとオーダーを変えて、点数順に1将から4将まで並べていた。狼軍は前回までと同じオーダーなので、4将の亀が2000点の相手とぶつかることになる。

…それでも、特別にプレッシャーを感じることはない。自信を持って対局に臨むことができた。


▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二飛▲2五歩△3三角▲6八玉△4二銀▲5八金右△6二玉▲7八玉△7二玉▲9六歩△9四歩▲5六歩△5四歩▲1六歩△5二金左▲8六歩△8二玉▲8七玉△7二銀▲7八銀△6四歩(第1図)



予選1回戦から4局連続での先手番。先手だから即勝てるというわけではもちろんないが、悪い気はしない。

▲7六歩△3四歩▲2六歩に△4四歩〜△3二飛の三間飛車は、事前の棋譜並べから予想された作戦である。対してすぐに▲2五歩△3三角を決めてしまうのは、△3五歩〜△3四飛の「石田流」にすんなり組ませないようにする意味。

こちらの作戦は、予選2回戦から指し続けている「天守閣美濃」。最初の頃は、あまり慣れていない指し方に戸惑った様子も見られた1将のリンリンさんだが、すぐに慣れたようで安心して見ていることができる。

第1図以下▲3六歩△4三銀▲3七桂△2二飛▲4六歩△7四歩▲5七銀△7三桂▲6六歩△8四歩▲6七金△6三金▲7九角△5一角▲6八銀△3二飛(第2図)



▲3六歩〜▲3七桂は遊び駒の活用で自然な手だが、相手の飛車がいるところに桂頭の傷を作るのでやや怖い意味もある。その意味では△2二飛とまわってもらって一安心できた。ここで30手となり、2将のよっすぃーさんにバトンタッチ。

▲4六歩△7四歩には、すぐに▲4五歩の仕掛けも有力そうか(△同歩なら▲3三角成〜▲3一角)。よっすぃーさんは▲5七銀〜▲6六歩と穏やかな順を選んだ。

お互いに高美濃を完成させた後、△5一角〜△3二飛と弱点の桂頭に狙いをつけてきたのが機敏な動き。形勢は別としても、局面の主導権は握られてしまったかな、と感じた。

第2図以下▲2六飛△3五歩▲同歩△同飛▲3六歩△3二飛▲7七銀右△3四銀▲2九飛△3五歩▲2四歩△同歩▲3五歩△同銀▲4五歩△3六歩▲2五桂△3四飛(第3図)



桂頭を守る▲2六飛はこの一手。この時、序盤にリンリンさんが突いた▲1六歩が活きていて、これを突いていないと△1五角で痺れてしまう。

△3五歩▲同歩△同飛▲3六歩△3二飛と進んだ局面、これは少し辛いかな、と思った。3六の地点を守っているのは飛車一枚だが、後手は△3四銀〜△3五歩とすれば飛車と銀の二枚で桂頭を攻めることができる。当然ながら、一枚の守りvs二枚の攻めでは相手に突破されてしまうのだ。

それでも、よっすぃーさんは慌てず騒がず▲7七銀右。自陣を引き締めながら角の利きを通した。

―――――右辺は制圧されてしまうかもしれないけど。それでも、こういう手は絶対に損にはならない。固めておけば、いつかはいいことがあるはず。

7七に銀がいる先手の美濃囲いと、7三に桂がいる後手の美濃囲い。三段目にいる先手玉と、二段目にいる後手玉。その差は見た目以上に大きい。たとえ右辺で四対六くらいの劣勢になっても、終盤になれば堅さ・遠さの差で十分に逆転が見込める。

後手の桂頭攻めに対し、よっすぃーさんも手順を尽くして対応する。△3六歩に対する▲2五桂(△同歩なら▲同飛で十字飛車が決まる)などは一瞬ハッとする手だが、相手の△3四飛も冷静。ここで60手になった。3将のれいなさんにバトンタッチ。

第3図以下▲3五角△同飛▲4六銀△3二飛▲4四歩△5三金▲3三歩△2二飛▲2三歩△同飛▲3二歩成△2五歩▲3五銀△8三桂(第4図)



第3図から▲2二歩のような確実な手で勝てれば一番いいのだが、それは△3七歩成で攻め合い負けしそう。というわけで、作戦会議で決まった手はズバッと▲3五角だった。△同飛に▲4六銀と押さえ、△3二飛(△2五飛は▲2六歩がある)に▲4四歩。4三にと金ができれば、後手玉への大きな脅威になる。

そして△5三金には▲3三歩が気持ちいい。「駒は取られる直前が最もよく働く」という例だ。△2二飛には▲2三歩と追撃し、△同飛▲3二歩成でついにと金ができた。寄せ合いの形にさえ持ち込めば、囲いの差が活きてくる。

△2五歩には▲3五銀が落ち着いた好手で、形勢好転を感じていた。後手は大きく駒得しているが自陣の大駒の働きが弱く、ただ目標にされるだけの駒になっている。先手は1九香以外の全ての駒が働いていて、玉も堅い。

もはや△3七歩成は間に合わないと見て、後手は△8三桂と直接囲いを攻めにきた。次に△7五歩や△9五歩がいやらしい。

第4図以下▲3四銀△2四飛▲4三銀成△4七角▲4九飛△4三金▲同歩成△4八歩▲同飛△3七歩成▲4七飛△同と▲4二と寄△同角▲同と△2九飛(第5図)



▲3四銀〜▲4三銀成と、調子良く攻め込む。二枚目のと金ができ、手順に飛車も捌け、あとは後手玉を寄せるだけである。▲4二と寄が猛烈に厳しく、こうなると後手にとって5一の角はいないほうがいいくらいの駒になってしまっている。

▲4二と寄に△6二角と逃げるのは▲5二と寄でさらにひどいことになる。後手陣の要の駒は5一の角ではなく6一の金なので、要の駒をと金で攻撃される展開は後手としては避けたいところ。そこで角をあっさり捨てた。

角を取り返し、駒割りは金桂交換で先手の駒得。俗に言う、「堅い、攻めてる、切れいな(切れない)」の展開になった。△2九飛で90手になり、4将の亀にバトンタッチ。

第5図以下▲5三角△2三飛▲3五角成△4四歩▲同馬△5八銀▲6八金引△6九銀不成▲同金△5八と▲5二と△8一金▲6一と△同銀▲5八金△8五歩(第6図)



作戦会議の結論は、じっと▲5三角。こうしておいて次に▲5二と(△同金なら▲7一角打で詰み)を狙う。一手を争う展開であれば先に▲5二と、と捨てるほうが勝るが、先手玉がまだまだ安全なのと、と金は攻撃の要の駒なので、捨てる手は決め手に残しておいたほうがいい、というわけだ。

△5八銀には▲5二と、と攻め合いを挑んでも一手勝ちできそうではあるが、もちろんリレーでそんな危険なことはしない。いったんは▲6八金引と面倒を見る。そして△5八とには▲5二と。今度は△6九と▲6一と、と進んだときに先手玉がゼット(絶対に詰まない形)なので、これはハッキリ勝ちである。

△8一金の受けには▲6一と△同銀にジッと▲5八金。予選第2局の反省を活かして、絶対に焦らないように心がける。△4九飛成は▲4八金打で大丈夫。

△8五歩の玉頭攻めは天守閣美濃の急所だが、7七の銀の存在がかなり大きい。中盤でよっすぃーさんが指した▲7七銀上が、しっかりと活きる結果になった。やっぱり、固めておけばいいことはあるのだ。

第6図以下▲8四金△8六歩▲同銀△8五歩▲7七銀引△1九飛成▲3五角△8六香▲9七玉△9二香▲7一銀△9一玉▲8二金△同金▲同銀成△同玉▲7一馬△9一玉▲8二金(第7図)まで、先手の勝ち



▲8四金は、直前の△8五歩を悪手にしようとする手。9三の逃げ道を塞ぎながら、先手の玉頭を手厚くしている。▲8四銀でも良さそうだが、持ち駒が角と金の二種類になるよりも、角金銀と三種類あったほうが得になる場合が多いようだ(もちろん状況次第だけれど)。

△8六歩▲同銀△8五歩の瞬間に▲8三金△同玉▲7五桂以下の詰み筋があったようだが、ここはずっと安全勝ちを意識して指していたということでご勘弁を。最後は即詰みの状態で1将のリンリンさんにバトンを渡し、リンリンさんがしっかりと仕上げをしてくれた。



固めておけば、いつかはいいことがある。その想いが結果的に現実になった一局だった。

もちろん、思うだけで現実になるほど世の中甘くはないだろうけれど(実際の指し手によって勝利を引き寄せてくれた仲間たちに感謝)、いいことがあるはずだと信じることは結構重要だと思う。信じる気持ちが指し手に乗り移り、最終的に勝利へと繋がるのだから。


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