危チームが初出陣・初勝利を挙げた翌日の7月18日、日曜日。今度は歩チームが出陣する番だ。

午前中はNHK杯を見て(いつもリレーの日は本番まで将棋を見たり指したりしないのだが、里見女流名人の対局ということで思わず見てしまった)、昼食は近所のモスバーガーへ行って「ロースカツバーガー」。しっかりとゲンかつぎはしておく。リレーの日に緊張で食欲がなくなったりしていたのも、今となってはいい思い出である。

幸か不幸か、午後はほとんど将棋のことを考える余裕もなかった。締め切り直前でしかも量が異常に多いのに、ほとんど手をつけていないレポートが残っていたのだ。今頑張って気持ち良くリレーに臨もう、と思って少しだけ頑張った。

思い返してみれば、対局前の段階からリレーを「楽しみ」だと思えるくらいの余裕があったのは、初めてのことだったかもしれない。もちろんリレーそのものは「楽しみ」だが、当日は緊張でそんなことを考える暇もなかったのだ。自分自身が成長できたということもあるのだろうし、心強い応援団の存在も抜きには語れない。

もちろん勝ち負けは指してみないと分からないけれど、いい状態で対局に臨めそうだ、と感じていた。



さて、初戦の相手に決まったのは「ずっとトイザらスキッズ」チーム。peercastを使った将棋配信者が集まったチームとのことだった。全体的にR点はこちらのほうが高いが、もちろん油断はできない。

21時、ついに歩チームのデビュー戦が始まった。今日も数多くの応援団。そして、今までになく適度な緊張感。個人的には、最高の状態で出陣することができた。

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲7八飛△4四歩▲7五歩△2二飛▲3八銀△4二銀▲3六歩△4三銀▲3七銀△6二玉▲3八金△5二金左▲4八玉△2四歩▲5八金△1四歩(第1図)



こちらのオーダーは1将あやちょさん、2将亀、3将安倍さん、4将リンリンさんの布陣。相手チームは全員振り飛車党ということで、リンリンさんを1将に置いて対抗形を目指すか、あやちょさんを1将に置いて相振りを目指すかという選択になった。話し合いの結果、初参加のあやちょさんを、序盤でプレッシャーのかからない1将に置こうという結論になった。

歩チームの先手番で、予定通りの相振りに。こちらは三間飛車、相手は向かい飛車に振った。向かい飛車に対しては、▲3八銀〜▲3六歩〜▲3七銀と矢倉に囲うのが有力になる。もちろん形勢云々という段階ではないが、上々の滑り出しだ。あやちょさんはほとんど時間を使わずに、スラスラと駒組みを進めていく。

第1図以下▲1六歩△7二玉▲6八銀△8二玉▲6七銀△5四銀▲7四歩△同歩▲同飛△7二銀▲5六銀△7三歩▲7六飛△4五歩▲3九玉△4二飛▲9六歩△6四歩▲7七桂△2五歩(第2図)



端歩を受けるかどうかは難しいところ。相振りでは受けないことが多いが、受けても一局だと思う。▲7四歩△同歩▲同飛に△7二銀と上がったところで30手になり、2将の亀にバトンタッチ。初出場のあやちょさん、大事な仕事をしっかりとこなしてくれた。

▲5六銀は様子見。相手の出方によって飛車の引き場所を変える意図である。△7三銀と出て矢倉を目指された時は、浮き飛車にすると金銀で圧迫されてしまうので▲7八飛と引くことになる。本譜の△7三歩なら矢倉はないので、▲7六飛。

その後は駒組み合戦だが、第2図の△2五歩はやや疑問だったか。4筋を攻めるための△4二飛との組み合わせがあまり良くなく、後手から動き辛い形になってしまった。

第2図以下▲9七角△6三金▲9五歩△6二金上▲9八香△4四角▲4八金左△3三桂▲8六角△8四歩▲9七角△8三銀(第3図)



後手から動き辛くなり、こちらはいつでも好きな時に動くことができる。気分的にはだいぶ楽になったが、▲9七角△6三金にすぐ▲6五歩と仕掛けなかったのは逸機だったか。▲6五歩△同歩▲6四歩に△6二金引なら▲6五銀と出てそのまま攻め潰せそうだし、▲6四歩に△7四金なら▲6三歩成〜▲5三角成があった。本譜は△6二金上と備えられ、先手からも仕掛けが難しくなってしまった。

△6二金上以降は睨み合いが続く。依然として仕掛けの権利は先手にあり、後手は隙を見せれば一瞬で潰れてしまう。しかし先手も、下手な仕掛けをするとすぐに攻めが切れてしまい、完封されてしまう恐れがある。剣の達人同士が向かい合っている状況も、こんな感じに似ているのだろうか。

交代の時には余裕のあった持ち時間もあっという間に減っていき、ついに秒読みに入った。▲8六角〜▲9七角と、辛い待機。仕掛けて一気に優勢を掴み取りたいという欲求。仕掛けて失敗したら取り返しがつかないという恐怖。3将の安倍さんに、優勢な局面でバトンタッチしたい。でも、失敗するくらいなら膠着状態のままでバトンを渡した方がいいのだろうか。色んなことを考えていた。

銀冠を目指した△8三銀。行くならもうここしかない、と思った。理屈もそうだけれど、何よりも感性がそう告げていた。

第3図以下▲6五歩△同歩▲同銀△同銀▲同桂△6四歩▲5一銀△5二飛▲6二銀成△同飛(第4図)



▲6五歩。ついに動いた。既にどちらかが優勢になっているんだろうと思った。もしかしたら、仕掛けはうまくいかないのかもしれない。それでもリレーでは、多少無理気味でも攻勢をとることが大事だ。それを思い出したから仕掛けに踏み切った、という部分もある。

▲6五歩△同歩▲同銀の局面は大きな分岐点。素直な△同銀の他に、△7七角成▲同飛△6五銀(変化1図)と切り返す順もある。



変化1図は角と銀桂の二枚替えで、次に△8五桂も残っている。形勢は難しそうだが、どちらかといえばこの順を選ばれるほうが嫌だった。
本譜は素直な△6五同銀。改めて読みを入れるうちに、確信に至った。大丈夫だ、この順は優勢になる、と。

△6四歩の桂取りには▲5一銀の割り打ちで攻撃続行。△5二飛で60手となり、3将の安倍さんにバトンタッチした。▲6二銀成△同飛となった第4図。次の一手が決め手になった。

第4図以下▲4三金△9九角成▲5三桂成△同金▲同金△6一飛▲6三歩△9八馬▲6二歩成△2一飛▲6四角△6五銀▲7九飛△8八馬▲4九飛△5五銀(第5図)



▲4三金が厳しく、△9九角成に▲5三桂成となって先手の攻めはもうほどけない。▲6三歩の垂らしも抜群に味がいい。

しかし。将棋は、そしてリレーは、相手が投了するまでは決して終わらない。どのチームも、最後の最後まで逆転を信じて粘ってくるのだ。相手が投了するまでは、絶対に気を抜いてはいけない。もちろん、劣勢になったときも最後まで逆転を諦めてはいけない。それがリレーを通して得た一つの大きな教訓だ。

第5図以下▲5五同角△同馬▲7一銀△同飛▲同と△同玉▲5二飛△7二銀▲8三金△6一銀打▲7二飛成(第6図)まで、先手の勝ち



▲5五同角と銀を取って▲7一銀がわかりやすい攻め。最後は▲8三金という鮮やかな決め手を放ち、安倍さんが4将にバトンタッチする前に勝負を決めた。第6図以下は△同銀に▲6二銀の詰み。

仕掛け以降は一方的になってしまい結果的には快勝だったが、そこまでの過程では苦労もしたし、またそれを楽しむこともできた。最高の滑り出しになったと思う。



「乾杯!!」

恒例の祝勝会。もう何度目になるかわからないが、何度やってもいいものだ。まだ夏は始まったばかり。勝ち進むことができれば、10月まではこの「夏祭り」を楽しめるのだ。

去年までとはまた違うメンバーで始まった今年の夏祭り。今年はどんな展開が待っているのだろうか。


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