1回戦の快勝から2週間後、8月1日。暑い暑い夏の日が、歩チームの2回戦の対局日だった。リレーも、これからどんどん熱くなってくる。

歩チームの対局は予選2回戦の最終日。大生軍と危チームは既に対局を終えていた。大生軍は一手損角換わりから相手の猛攻を受け、入玉を目指す展開に。途中チャンスと思われる局面もあったが、相手の正確な寄せの前に、惜しくも初勝利とはならなかった。
危チームは変則的な出だしから、1将の石川さんが相手の不用意な一手を機敏な動きで咎めた。以下は居玉のままほとんど一方的に攻め潰して快勝。確かな技術とチームワークに勢いも加わった危チームが、2連勝で予選通過を決めた。

さて、歩チームはどうなるのだろうか。


対局当日の過ごし方も、ある程度定跡化されてきた。昼食はやはりカツ。ただ、今回はロースカツバーガーではなく別のお店でカツサンドを食べた(似たようなものだけど)。そして帰りに祝勝会用の食べ物とお酒を買い、家に戻ってからは将棋のことをあまり考えずに過ごす。前回と違い今回はレポートに追われているような状況でもなかったので、より気持ちに余裕があった。

対局前の夕食は、1回戦のときと同じもの(生協で売っていた398円の天重)を食べた。昼は違うものだったが、夜はゲン担ぎ。そして、リレーの日専用の扇子と午後の紅茶レモンティーを用意して戦闘準備完了。



2回戦の対局相手は、高校生4人という若々しいチームの「Victoria」……高校生に「若々しい」という表現を使ってしまうあたり、歳をとったなあと思ってしまう。高校生に大人の恐さを教えなければ、と、これまたオジサン的な思考が働く。
21時、歩チームの後手番で対局開始。少し緊張はあったが、それも別に珍しいことではない。1回戦と同様、いい状態で対局に臨めた。

▲7六歩△8四歩▲6八飛△8五歩▲7七角△6二銀▲4八玉△4二玉▲7八銀△5二金右▲3八玉△3二玉▲2八玉△5四歩▲1八香△5三銀▲1九玉△4四歩▲2八銀△3四歩(第1図)



今回のオーダーは前回の2将と3将を入れ替え、あやちょさん→安倍さん→亀→リンリンさんの順。1回戦と同じく相手は振り飛車で来ることが予想され、1回戦は相振りで対抗したので今回は居飛車で行こうということになった。そのための安倍さん2将である。1将から3将はこちらがR点で少しリードしているが、相手の4将の1800点台が脅威となっている。

相手は▲6八飛と四間飛車の作戦。あやちょさんは△8四歩〜△8五歩〜△6二銀と、角道を開けない工夫を見せた。最近流行の「角交換振り飛車」を警戒している。

▲1八香で穴熊の作戦が明らかになった。振り飛車で来るということは予想できていたが、それに加えて穴熊というところまではあまり考えていなかった。△5三銀〜△4四歩〜△3四歩で、後手も持久戦志向の形である。

第1図以下▲3六歩△3三角▲3八飛△4三金▲6六歩△2二玉▲6七銀△3二金▲3九金△1二香▲1六歩△1四歩▲2六歩△1一玉▲2五歩△4五歩(第2図)



▲3六歩〜▲3八飛は振り飛車穴熊独特の手で、後手の玉頭に狙いをつけている。△1二香と相穴熊の意思を示したところで30手となり、2将の安倍さんにバトンタッチ。

▲2六歩〜▲2五歩は見たことがなかったので対局中はびっくりしたが、時々ある指し方とのこと。終盤で▲2四歩と穴熊の急所を攻める含みがあるが、2筋が急所なのはお互い様。囲いの一部である歩が前に出ていくことで、囲いそのものはやや薄くなっている。

先手は2筋の位という主張点を作ったので、後手としても何か主張点が欲しいところ。というわけで△4五歩。角道を開けながら先手の薄い4筋を狙う大きな一手だ。

第2図以下▲2七銀△2二銀▲2八金△4四銀▲5九金△4二角▲4九金△8六歩▲同歩△同角▲8八飛△8五歩▲3九金△7七角成▲同桂△7九角▲8五飛△同飛▲同桂△5七角成(第3図)



△4四銀までで、お互いの囲いは一応は完成した。ここからはさらに良い形を目指したり、仕掛けを狙ったりすることになる。
先手は▲5九金と寄せて囲いを堅くしに行ったが、△4二角に対する▲4九金はやや危険だったか。後手からは常に△8六歩の仕掛けがあるので、囲いを固め終わるまでは戦いを起こさない意味で▲8八飛なら無難だった。▲4九金の瞬間、先手陣は6七銀と4九金の二枚が浮き駒になっている。

果たして、安倍さんは長考の末に△8六歩を決行。▲同歩△同角▲8八飛に激しく△7七角成と斬り込む順も見えるが、▲8二飛成が3二の金に当たっているので危険なところか。一回は△8五歩と打った。

続く▲3九金も疑問(クリックミス?)で、依然としてこの金が浮いている。安倍さんは△7七角成▲同桂に△7九角と打ったが、△7九角では△8六歩▲8五歩の交換を入れてから△7九角(変化1図)ならはっきり優勢だったと思う。



安倍さん曰く、△8六歩の瞬間に8筋から逆襲されそうで怖かったとのこと。本譜は▲8五飛のぶつけから一気に終盤に突入した。△5七角成で金銀の両取り。先手も飛車の打ち込みから桂香を拾える形なので楽勝というわけにもいかないが、後手ペースは間違いないと思っていた。

第3図以下▲3八金上△6七馬▲8二飛△3三金寄▲5三歩△同銀▲4一角△4二銀▲5三歩△3一銀右▲5二歩成△4四飛(第4図)



▲3八金上に△6七馬で先に銀得したが、先手の▲8二飛も金桂両取りの厳しい手。△3三金寄で60手となり、亀にバトンタッチ。
先手は▲8一飛成で桂は取り返せるが、桂を取っても有効そうな使い道はない。そこで桂を取らずに▲5二歩が一番速い攻めだろう、というのが作戦会議での結論だった。それでも厳しい手が来るまでには▲5一歩成〜▲4一と〜▲4二と、の3手かかるので、こちらも飛車を下ろして△4六歩▲同歩△4七歩や△6六馬のような手を組み合わせて戦える、という読みだった。

ところが、再開後の一手は▲5二歩ではなく▲5三歩。これが上手かった。△同銀はそれだけで大きな利かされになるが、かと言って攻め合うのでは▲5二歩成〜▲4二と、があまりにも速すぎる。▲5二歩〜▲5一歩成の順とはわずか一手の差だが、もちろん終盤ではその一手の差が致命的な差になる。攻め合いを選ぶわけにはいかないのだ。

△5三同銀〜△4二銀〜△3一銀右と、手順に銀を引きつけて固める。本来はたまらなく味のいい順なのだが、▲4一角、▲5三歩の攻めが厳しすぎる。▲5二歩成の後、▲3二角成△同金▲4二金と食らいつかれると防戦不能に陥ってしまう。△4四飛は根性の一着だ。

第4図以下▲3二角成△同金▲8一飛成△4六歩▲同歩△4七歩▲4一と△4六飛▲3一と△同金▲2四歩△3五歩▲3三桂△4八歩成▲3二銀△4一歩(第5図)



相穴熊の将棋では、飛車角よりも金銀のほうが価値が高くなる、と言われる。▲3二角成で金をはがされたのは痛い。さらに▲8一飛成が駒を補充しながら▲4一と、を狙う味のいい手だ。

それでも、すぐに防戦不能になってしまうような事態は免れることができた。△4六歩▲同歩△4七歩▲4一と△4六飛と、反撃に転じる。ゆっくりだが、確実な攻め。△2四歩のところ▲3七金直と受けてくれば、△4八歩成▲4六金△3九銀(変化2図)と猛攻をかけるつもりだった。



変化2図は後手玉に王手も詰めろもかからない格好なので後手が勝ちそうである。

▲3三桂、▲3二銀と急所の攻めが飛んでくるが、△4一歩の底歩で必死に耐える。先手玉はまだ遠いが、攻撃の手番がまわってくれば俄然面白くなる。

第5図以下▲2三歩成△同馬▲同銀成△同銀▲2四歩△3八と▲同金△5五角▲2八角△4九飛成▲5五角△同歩▲2三歩成△4六角(第6図)



▲2三歩成に△同銀は▲3一銀不成なので、やむを得ず△同馬。
▲2四歩は厳しい叩きだが、この瞬間後手玉は「ゼット」の形。最後のラッシュをかける時が来た。

あやちょさんと安倍さんが早いペースで指してくれていたので、この段階になってもまだ1分ほど持ち時間が残っていた。次が90手目。指す手は △3八と、と決まっていたが、その後の勝負手を考えるため、そして控え室のみんなに考えてもらうため、ギリギリまで時間を使ってから△3八と、を指した。リンリンさんにバトンタッチ。相手の好手で苦しくなってしまったが、やれるだけのことはやったと思う。

△3八と、は難解ながらおそらく詰めろだろうし、手抜いて▲2三歩成は相手も相当にやり辛いだろうと思う。▲3八同銀は△3九銀と絡むのがいやらしい形なので、金で取るのが自然だろう。それには△5五角と攻防に利かして勝負。そこまでが作戦会議での結論だった。

▲2八角には、その瞬間に△2四銀と手を戻せばどうなっていただろうか。正確に指されると苦しいとは思うが、もう一勝負、もう二勝負、となっていたかもしれない。

▲2三歩成が入って後手玉は絶体絶命。△4六角は最後のお願いといったところ。しかし、受け間違えれば大逆転もある。そして、それが起こる確率が普通の将棋よりも高くなるのが、リレー将棋なのだ。

第6図以下▲3七銀△同角成▲同金△2八銀▲同玉△3九銀▲1七玉△2八銀打▲2六玉△3三桂▲同と△2五歩▲3五玉△4四金▲2四玉△2一桂▲2三桂(第7図)まで、先手の勝ち



結論から書くと、第6図の△4六角には▲2八歩で何事もなかった。2八の地点に合駒をすれば、先手玉は限りなく「ゼット」に近い形なのだ。相手の4将は1800点台だから、平常心であれば▲2八歩で大丈夫ということは一目で見抜いていただろう。

本譜は▲3七銀。これがリレーの魔力なのか。△3七同角成▲同金で、これはかなり際どい形である。リンリンさんは△2八銀以下、先手玉に迫る。△2五歩のあたり、控え室の雰囲気はかなり盛り上がっていた。先手の応手次第では大頓死もありえる。それがなくても、120手まで行って1将にバトンタッチとなれば、さらにチャンスは広がる。

△3五玉。正確な応手だった。掴めそうだった「逆転」の二文字は、あと一歩のところで相手の手中に収まってしまった。



1勝1敗。去年と同じく、3回戦に命運を託す展開になった。去年は大逆転勝ちで予選通過。今年はどうなるか。

相手の穴熊を想定していなかったことなど課題は残ったが、個人的には手応えのある敗戦だった。この調子で行ければ大丈夫、と思う。1回戦、2回戦と、将棋の内容に関してはそこまで大きな反省は必要ないと思っている。3回戦もきっといい将棋が指せるはず。

あとは応援団の支えと、将棋の神様のわずかな御加護があれば・・・結果はついてくるだろう。


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