1勝1敗となった歩チーム。2回戦は敗れはしたものの、内容の悪い負けではないと思っていたので悲観はしていなかった。運命の3回戦に、予選通過をかける。

2回戦の直後から亀は夏休みに入ったが、ちょこちょことやらなければいけないことはあって少しだけ慌ただしい日々。その中で、検討盤に歩チームのメンバーが揃った時は3回戦に向けての話し合いを行った。


3回戦の対局日は8月15日。この日はちょうど実家への帰省を終えて移動の日だった。アパートへ着いて部屋の片付けやら掃除やらをし、やっと一息つけたのは夕方5時過ぎ。かなり疲れていたが、これからが一番大切な時間帯だ。30分だけ休憩してから、夕食と祝勝会用のものの買い物へ行った。今回は夕食にトンカツ。少々の疲れと眠気はあったが、気持ちは落ち着いていた。



3回戦の相手は「毘沙門々天」。去年のリレーで2回負かされた「風林檎火山」と同じサークルからの出場チームである。

21時、いよいよ運命の一局が始まった。机の上には、いつものリレー専用扇子。飲み物は今年は気分で変えていて、この日はミルクティーを用意していた。…そして、控え室には多くの仲間がいる。

▲2六歩△3四歩▲7六歩△5四歩▲4八銀△5二飛▲6八玉△5五歩▲5八金右△6二玉▲7八玉△3三角▲3六歩△7二玉▲3七銀△3二金▲4六銀△8二玉▲2五歩△7二銀(第1図)



今回の歩チームのオーダーは、1回戦と同じくあやちょさん→亀→安倍さん→リンリンさんの順。R点の比較では、1将と2将はこちらが、3将と4将は相手がリードしているという図式だが、安倍さんとリンリンさんの実力を考えればさほど気になるような差でもない。

歩チームの後手番で、▲2六歩△3四歩▲7六歩△5四歩からゴキゲン中飛車の出だしになった。これは予定通りだったが、▲3六歩〜▲3七銀に意表を突かれた。リレー将棋ということや前述のオーダーの比較から考えても持久戦を選んでくる可能性が高いと思っていたが、本譜は急戦策。▲3七銀〜▲4六銀は最近流行している指し方で、▲4五銀や▲3五歩と角頭の弱点を突く狙いだ。

おそらくあやちょさんも急戦策に意表を突かれていたと思うが、落ち着いた対応を見せた。△3二金と上がって左辺を厚くする。そして第1図の△7二銀で、強く戦える態勢になった。

第1図以下▲6八銀△4二銀▲7七銀△5三銀▲6六銀△4四銀▲9六歩△9四歩▲6八金上△5一飛▲3七桂△1二香▲1六歩△1四歩(第2図)



第1図から▲4五銀なら、3四の歩を取らせた後に△4二銀〜△3三銀とぶつけていったり△5六歩からの反撃を狙うような展開になる。本譜は▲6八銀〜▲7七銀〜▲6六銀で、お互いの銀が睨みあう形になった。△5一飛で30手となり、2将の亀にバトンタッチ。あやちょさん、あまり想定していなかった展開にもしっかり対応してくれた。

△1二香は角を追われたときに△1一角と深く逃げ込むことができるようにした手。このあたり、自分は定跡には全く詳しくないので、会議の時は応援に来てくださっていた大生軍のしまさんに色々とアドバイスをいただいた(しまさんありがとうございました)。

▲1六歩は将来の△1五角を消す大切な手。△1四歩に、さあ来るか、とPCの前で身構えていた。

第2図以下▲2九飛△6四歩▲2八飛△7四歩▲1八香△7三桂▲7七桂△8四歩▲2九飛△8三銀▲9八香△7二金▲9九飛△6一飛▲2九飛△6五歩▲同桂△同桂(第3図)



第2図で▲4五桂なら△1一角▲2四歩△同歩▲同飛△3三桂(変化1図)のような展開が予想される。これも一局か。



本譜は第2図から仕掛けずに▲2九飛。△6四歩に…▲2八飛。さらに、△7四歩に▲1八香。相手の方針は「徹底待機」だった。

この2将が、R点で言えばこちらが最も大きくリードしているところ。そして3将と4将のR点は、相手がリードしている。その点を考慮しての待機策だったのだろう。

それならば、と△7三桂。長考の末に決断した、序盤の勝負手。普段の自分ならば絶対に指さない手、この一局の、この状況だからこそ指した一手だった。△6五歩を見せ、▲7五歩の仕掛けを誘っている。▲7五歩なら△6五歩▲7四歩△6六歩▲7三歩成△同銀と進むことが予想される。正直その展開はあまり自信がなくて、気合いで指したという部分が大きかった。来るなら来い、来る勇気があるか、と仁王立ちしている感じだ。

そんな気合いが画面越しに伝わってくれたのか、▲7七桂。これならば、ゆっくりした展開になっても作戦勝ちが望めるので不満はない。銀冠に組み、△6一飛〜△6五歩▲同桂△同桂で駒得に成功した。

第3図以下▲4五桂△2二角▲2四歩△同歩▲2五歩△同歩▲同飛△2三歩▲3五歩△5四桂▲3四歩△5六歩▲3三歩成△同桂▲同桂成△同角▲6五飛△6六桂▲同歩△6四歩(第4図)



▲4五桂には△1一角が自然だが、あえて2二に引く。▲2四歩△同歩▲同飛に△5四桂の反撃を狙おうという意図だった(このとき1一に角を引いていると、▲6五銀△同飛▲2一飛成がある)。本譜は▲2四歩△同歩に▲2五歩の継ぎ歩。△2三歩と収めたところで60手となり、3将の安倍さんにバトンタッチ。桂得はしたが、思ったほどは良くなっていないのではないか、もうちょっと良くできなかったか…というのが指し終えた瞬間の心情だった。

再開後の手は▲3五歩。一目はありがたい、という印象だった。▲3四歩〜▲3三歩成の二手を指しても、特別厳しいというわけでもない。

しかし、△5四桂に▲3四歩と取り込まれた局面で意外と手が難しい。△4六桂は相手玉から遠い駒との交換なので面白くないし、△6六桂は▲同歩が6五の桂に当たってしまう。△5四桂は手抜かれた時に意外と難しいことに、自分が指している間に気が付いてはいたが、それを作戦会議の時に伝えるのを忘れてしまっていた。痛恨のミス。

△5六歩の味付けには▲3三歩成△同桂▲同桂成。このとき2五の飛車の横利きが通ってきている。△3三同角では△5七歩成と勝負する順もあったかもしれないが、いきなり負けになる危険性もあるので踏み込みにくいところか。本譜は6五の桂を取らせる展開になった。とは言っても、先に桂得をしているので△6六桂▲同歩で銀桂交換の駒得は残っている。第3図の△6四歩で△6五飛▲同歩の飛車交換は、△6四桂の筋が厳しく後手大変だろう。

第4図以下▲2五飛△2四歩▲2九飛△5七歩成▲同金直△5四桂▲5三歩△5一歩▲4五桂△同銀▲同銀△6五歩▲5四銀△6六歩▲6二歩△6七銀▲同金寄△同歩成▲同金△5五桂(第5図)



飛車を追って△5七歩成〜△5四桂に対し、▲5三歩が軽妙。△4二金なら▲3四歩△1一角に▲2四飛がある。△5一歩は相当に大きな利かされだが、リレーらしい手とも言える。

▲4五桂△同銀▲同銀に、一転して安倍さんは激しい順へ飛び込んだ。桂取りを放置して△6五歩、さらに一直線に△6六歩〜△6七銀と攻め立てる。▲6七同金寄△同歩成の局面で90手、バトンタッチとなった。

4将のリンリンさんは攻め将棋で、鋭い寄せが持ち味。そのリンリンさんが持ち味を発揮できるような形でバトンを渡す……それが安倍さんの意図だった。自分なんかは目の前の局面に対応するだけで一杯一杯になってしまうが、こうして次のメンバーのことを考えて局面の流れを操る安倍さんの技術は、さすがと言うしかない。

この後鮮やかな寄せを見せることになるリンリンさんの働きの影に、地味ながらも安倍さんの熟練の技が存在していたということは見逃せない重要な要素である。

再開後は▲6七同金に△5五桂。際どい終盤戦になっている。

第5図以下▲6六金△6七金▲同金△同桂成▲同玉△8八角成▲6五桂△6二金▲6四銀△3七角▲7三金△9二玉(第6図)



第5図の△5五桂には手堅く▲5六銀を予想していたが、本譜は▲6六金。△6七金の清算から△8八角成と角を取りながら成り込み、寄せの態勢が作れた。次の▲6五桂では▲6一歩成と飛車を取り、△4八角▲5六金(変化2図)で際どい勝負が続いていたとのことだった。



実戦的には後手が勝ちやすいとは思うが、実際のところかなりギリギリなのだろう。

▲6五桂には△6二金と歩を払うのが冷静で(▲7三銀△同金▲同桂成は玉を素抜ける)、続く▲6四銀に△3七角が攻防の名角だった。後手は駒を渡さずに詰めろをかけることが難しい。△7三金に▲9二玉も正着で、控え室の検討盤ではリンリンさんの指し回しに歓声が上がっていた。

勝利は、予選通過は、目の前のところまで来ている。

第6図以下▲4六桂△7三金▲同銀成△6五飛▲同銀△6六金▲5八玉△5七金打▲6九玉△7七桂(第7図)まで、後手の勝ち



▲4六桂に、時間差で△7三金と取る。▲同銀成で後手玉も受けはなくなった。あとは先手玉が詰むか詰まないか。

検討盤で見守っていた亀は、△6六金▲5八玉△5七金打(5筋に歩は利かない)▲6九玉で打ち歩詰めかと最初思っていた。しばらくしてから、(誰だったかは覚えていないが)最初に△6五飛と桂を補充する手があるという指摘で詰みに気付く。そこからはもう、手を合わせて祈るしかなかった。

指してくれ。桂を取ってくれ……。


△6五飛が画面に映し出された瞬間の控え室の盛り上がりは、想像に難くないだろう。△7七桂まで、歩以外の駒を全て使い切っての詰み。予選通過を祝うかのような、綺麗な素晴らしい寄せだった。



危チームに続いて、歩チームも予選を通過することができた。これまで狼軍は毎年予選を通過しているので簡単なことのように思われるかもしれないが、実際は見た目以上に苦労がある。

4人全員の力に加えて応援団の力も全て結集し、苦労をしてようやく得られるのがリレーの一勝。この将棋には特にそれが色濃く表れている。

多くの仲間に感謝しながら、本選を楽しんでいければと思う。負けたらそこで終わりという過酷な状況だけれども、それでも「夏祭り」は続いていく。


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