大生軍の勝利に沸いた日から1週間後の、7月16日。狼軍もいよいよ開幕戦の日を迎えた。

青空の見える、暑い夏の日。リレー日和、とでも言うのだろうか。

この日の昼食は、モスバーガーへ行ってロースカツバーガーを食べた。去年の予選1回戦(結果は快勝)と同じもので、二重にゲン担ぎをしておく。その後は祝勝会用のお酒や食べ物を買って帰り、午後は掃除や洗濯など、将棋とは関係のないことをして過ごす。すっかりおなじみとなった定跡手順。

リレーはもう5回目の出場、「ベテラン」と言ってもいいだろう。リレーに関するたいていのことには、もうだいぶ慣れている。開始前の独特の緊張感とも、上手く付き合えるようになってきた。



1回戦の相手は「短パン組」チーム。2000点超えのメンバーこそいないが、全員が1300点以上のバランス型チームである。かつての狼軍が同じようなメンバー構成だったので、多少やりにくさのようなものも感じていたが、今の自分たちなら真っ向勝負を挑むことができる。自信を持って臨もう、と思った。

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲5六歩△6二玉▲6八玉△7二銀▲7八玉△7一玉▲2五歩△3三角▲5八金右△9四歩▲9六歩△3二銀▲3六歩△8二玉(第1図)



21時に対局開始。狼軍のオーダーは1将から順番に、茉麻さん、よっすぃーさん、亀、もみじさん。開幕戦ということで変に捻りは加えず、オーソドックスなオーダーを組んだ。

先手番を引き、▲7六歩△3四歩▲2六歩と居飛車を明示する。対する△4四歩からの四間飛車は予想された作戦。こちらの作戦は色々と考えられるところだが、▲3六歩は急戦の意思表示。

第1図以下▲6八銀△5二金左▲5七銀左△5四歩▲6八金上△4三銀▲1六歩△1四歩▲4六歩△6四歩▲4五歩△2二飛▲4四歩△同銀▲3五歩△同銀▲3三角成△同桂▲3一角△2一飛▲6四角成△4五桂(第2図)



▲6八銀から▲5七銀左と、最も有名な形の急戦策をとる。対する振り飛車側は、3二の銀を△4三銀と上がるか上がらないかが一つの大きな分岐点。この銀の位置によって、居飛車側の作戦も大きく変わってくる。本譜は△4三銀と上がってきた。

△6四歩で30手となり、バトンタッチ。指し慣れた戦型の駒組みではあるが、茉麻さんは開幕戦の先頭打者という大役を完璧にこなしてくれた。

2将よっすぃーさんの第一手は▲4五歩。「早仕掛け定跡」と呼ばれる形で、△4五同歩なら▲3三角成△同桂▲2四歩と飛車先を突破できる。
そこで▲4五歩には△7四歩や△6三金と待機するのが自然だが、後手は△2二飛と変化してきた。振り飛車という戦法の基本方針は「戦いが起こった筋に飛車をもってくる」なので、その方針の逆を行く△2二飛は、感触としてはあまり良くない。

ここからのよっすぃーさんの指し回しは素晴らしかった。▲4四歩△同銀に、▲4五歩は△5三銀で後手も頑張れそうだが、▲3五歩が「筋」の一着。△3五同歩は▲3四歩で終わってしまうし、本譜の△同銀も角交換から▲3一角で調子がいい。後手は△4五桂の反撃に望みをかけるが。

第2図以下▲4六銀△同銀▲同馬△4一飛▲4四歩△同飛▲3六銀△3五銀▲同銀△同歩▲同馬△4一飛▲4四歩△3一飛▲3二歩△同飛▲4五馬△3九銀(第3図)



▲4六銀と強くぶつけたのが、地味ながら好判断だったと思う。この瞬間が少し怖い形だが、△6三歩は▲5四馬が飛車に当たるし、△6三銀も▲同馬△同金▲4五銀の二枚替えで先手指せるだろう。

本譜、△4一飛に対する▲4四歩△同飛▲3六銀も好手順。この戦型は居飛車側が先攻するが、実際はそのまま一気に攻め潰すのではなく(振り飛車側が悪手を指せば別だが)、このように少しずつ少しずつリードを広げて勝つ戦型なのである。

△3一飛には▲3四歩が有力だったが、△6四角の筋を気にしたのか、▲3二歩から▲4五馬と攻めを意識した手順。△3九銀で60手となり、3将の亀にバトンタッチ。

第3図以下▲5四馬△3三飛▲3四歩△同飛▲4三銀△同金▲同馬△3五飛▲1八飛△4八銀成▲同飛△3九飛成▲4九金△2九龍▲6四桂△6三銀打▲7二桂成△同金▲5四銀△2七角(第4図)



よっすぃーさんが力を出し、形勢はやや良し。相手の3将も点数の上ではこちらが上なので、自信を持って出陣した。

しかし、△3三飛に対する▲3四歩は指しすぎだったか。一直線に△3五飛の局面まで進んでみると、先手は歩切れ、馬が邪魔していて4四の歩が成れない、飛車取りが残っている・・・と、ほとんど一方的に損ばかりしている。△3三飛には何も利かさず単に▲1八飛で優位を維持できていただろう。

本譜、△3九飛成の局面では既に紛れていそうである。▲4九金はリレーらしい根性の一着だが、やや辛い。▲7二桂成△同金の局面で手が見えない。攻め駒が3枚しかないし、馬を動かして▲4三歩成の攻めが間に合うかどうか分からない。秒読みに追われて▲5四銀と打ったが、すかさず△2七角。

去年の悪夢が蘇りそうになっていた。完全に払拭するつもりでこの対局に臨んだのに、再び繰り返してしまうのか・・・。
こんなことが少しでも意識に上っている時点で「アウト」ではあるのだけれど、それでも必死に最善手を探す。相手との戦いである以上に、リレーの「魔物」との戦いであり、自分自身との戦いでもある。こればかりは、検討盤にいる仲間たちにも助けてはもらえない。助けられるのは自分自身だけであって、孤独な戦いだ。

第4図以下▲6三銀成△同角成▲5二銀△6四馬▲6一銀不成△7一金▲5二馬△6二銀▲4三歩成△4七歩▲同金△5一歩▲5三銀△同銀▲同馬△同馬▲同と△4六歩(第5図)



▲5二銀から▲6一銀不成と細かく利かして迫るが、冷静に△7一金とかわされて駒が足りない。▲5二馬は、△5一歩▲同馬△6二銀という順が見えていて、指されたらしょうがないと思っていたのだが、△5一歩には手抜きで▲6二銀が厳しそうか。ということで単に△6二銀だった。▲4三歩成は待望の一手だが、攻めきれるかどうかは際どい形。

△4七歩で90手になり、4将のもみじさんにバトンタッチ。後悔の気持ちは大きかったが、不幸中の幸いで、実戦的にはまだまだ際どそうな形。もみじさんを全力で応援するしかない。

△4七歩には▲同金と応じた。△4六歩や△5九銀のような攻めには手抜きが利く。△5一歩と打たれ、攻めが続くかどうか。
▲5三銀には△5二歩でどうだったか。さらに△4六歩がはっきり疑問で、大チャンスが来た。△4六歩では△6一金で際どい攻防が続きそうだったが、ただそれでも▲6二銀で実戦的には先手が寄せきってしまいやすいのかもしれない。どこかで▲5七金寄と飛車を活用する手も利く。

第5図以下▲7二銀打△同金▲同銀成△同玉▲1八角△同龍▲同香△8二玉▲6三と△8四桂▲7二飛△9三玉▲7三と△8六桂▲同歩△8七銀▲同玉△7六桂▲8二飛成(第6図)まで、先手の勝ち



第5図では▲6二銀が自然だったと思うが、本譜の順も▲1八角の王手竜取りが決め手で、攻めが切れない形になった。もみじさんは最後まで冷静に指し続け、▲8二飛成までで後手投了。大生軍に続き、開幕戦を白星で飾ることができた。



二週連続の祝勝会。もちろん、これほど嬉しいことはないのだけれど、茉麻さん、よっすぃーさん、もみじさん、それぞれが素晴らしい仕事をした中で、自分一人が転んでしまったことが少し心に引っかかっていた。未だ拭い去れない去年の悪夢。「忘れない」と「引きずる」は全く違う。

払拭できるのは、他の誰でもない自分自身だけ。払拭できた時が、本当の意味でのスタートになるだろう。


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