予選1回戦で勝利し、順調なスタートを切った狼・大生連合軍。次の2回戦は、7月28日、土曜日となった。1回戦で指していない自分にとっては、今回が本当の意味での開幕戦になる。

当日、自分は色々と買わなければならないものが溜まっていて、午後いっぱいを買い物に費やすことに。昼食は、買い物の前に駅ビルのうどん屋さんでざるうどんとカツ丼のセットをいただいた。買い物自体は気分転換の手段の一つになっているし、リレーの日はあまり将棋のことを考えないようにしているので、ちょうどいい用事ではあったのだけれど・・・広大なショッピングセンターの中を何時間も歩き回って、さすがに疲れてしまった。

買い物の最後に、晩ごはんと祝勝会用のお酒(今回はスーパードライ)とつまみを買って任務完了。バスで帰宅し、軽めの晩ごはんを食べて気持ちを高めていく。心地良い緊張感だった。



2回戦の相手は、初戦と同様にサークルから参加の「YELL.E」チーム。2将から4将が1800点オーバーでエースの3将は約2200点と、強力なメンバーが揃う。こちらは今回、もみじさんに代わっておむすびさんが入ることになり、1将から茉麻さん→安倍さん→亀→おむすびさんのオーダー。

▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩▲6八玉△6二玉▲3六歩△7二玉▲2四歩△同歩▲同飛△5六歩(第1図)



本局は狼・大生連合軍が先手番。

今回、事前の作戦会議では角換わりや矢倉といった相居飛車の将棋を主に想定していたのだが、当日発表されたオーダーでは、相手チームの前回4将だったメンバー(中飛車党)が2将に入っていた。果たして、4手目△5四歩から△5二飛と戦型はゴキゲン中飛車に。全く想定していなかったわけではないが、やや軽視していた作戦。茉麻さんにとってはいきなりの試練となってしまった。

しかも、相手は通常と少し違う指し方だった。茉麻さんは▲3六歩を突いてから、普通は入っているはずの△3三角の一手が入っていないことに気付く。▲3六歩〜▲3七銀の「超速▲3七銀」は、3三に上がった角の頭を目標にするのが狙いの一つなので、その角が3三でなく2二にいるのでは効果が半減してしまう。

角を上がっていないのを咎めるのであれば、もちろん▲2四歩しかない。△7二玉に対し、茉麻さんは熟考の末に踏み込んで行った。
▲2四歩△同歩▲同飛に、文字通りノータイムで△5六歩。まるで、この展開を待ち望んでいたとでも言わんばかりの雰囲気。茉麻さんは長考に沈んだ。

第1図以下▲2二角成△同銀▲7七角△3三角▲同角成△同桂▲5六歩△1四歩▲2八飛△3一金▲5七銀△8二玉▲7八玉△7二銀▲6八銀上△5五歩▲同歩△同飛▲7七角△2五飛▲2六歩△2四飛(第2図)



通常、後手が△3三角と上がらない形では、先手は▲3六歩(と△7二玉の交換)を入れずに▲2四歩と突くことになる。以下△同歩▲同飛△5六歩に、▲6六歩△5七歩成▲同銀△5六歩▲4八銀△1四歩▲4六歩△1三角▲2一飛成△4六角▲7八玉△5七歩成▲4二歩(変化1図)の進行が一例。



最後の▲4二歩が絶好で、△同銀は▲4一竜、△同金は▲3一竜、△同飛は▲5四桂があるので先手が指せる。ただし本譜は▲3六歩△7二玉の交換が入っているので、▲4二歩に△同飛と取られた時▲5四桂が王手飛車にならず、これは後手良し。以上が、検討盤でしまさんが解説してくれた内容だった。

8分6秒。持ち時間15分のリレー将棋においては、記録的な長考ではないだろうか。茉麻さんは▲6六歩ではなく▲2二角成と角を交換した。考えて、悩んで、苦しみ抜いた末の決断だっただろう。

この将棋を狼・大生連合軍が快勝することになったのは、この大長考があったからこそだと思っている。時間を残しておきたいという気持ちを捨てて、目の前の重要な局面にとことん向き合い続けることを選んだ。時間を残すことを選んで致命的な悪手を指していたら、この将棋はそこで終わっていた。それくらい重要で、8分の時間を注ぎ込むだけの価値がある局面だったのだ。

▲7七角△3三角▲同角成△同桂と、手損ではあるが△3三角の筋を消しておく。そして▲5六歩と取り返し(△同飛は▲2二飛成)、▲5七銀でその歩を支える。局面は落ち着いて、先手の一歩得が残った。19手目の▲7七角で既に持ち時間を使い切り、秒読みになっていたが(相手はまだ13分近くある)、十分すぎるくらいの戦果を挙げてくれた。△7二銀で30手になり、2将の安倍さんにバトンタッチ。

囲いを完成させた後手は△5五歩▲同歩△同飛から▲2五飛と積極的に動いてくる。飛車を打ち込む隙がない後手に対して飛車交換はもちろんできないので、▲2六歩と拒否して我慢する。歩得なので、ゆっくりした展開になればなるほど優位に立てる理屈だ。

第2図以下▲4六銀△3二金▲1六歩△9四歩▲9六歩△1二香▲8六角△6四角▲7七角△2三銀▲3三角成△同金▲2五歩△4四歩▲2四歩△同銀▲5六桂△5三角▲5四歩△6二角▲2二飛△2五歩(第3図)



局面の流れはいったん穏やかになり、再び駒組み。▲8六角△6四角には▲同角△同歩▲4一角から馬を作る順も考えられたところだが、▲7七角と引くのも指されてみればなるほどの手順。次に▲5五銀からこの角を圧迫していく狙いで、銀の出足の差(後手の2二銀は前線に出てくるまでに時間がかかる)を主張しようという構想である。

△2三銀では、△3一銀〜△4二銀と中央に活用するのが本筋だっただろうか。加えて、△2三銀の瞬間に後手陣には隙が生じていた。安倍さんは秒読みの中、それを見逃さなかった。一閃、▲3三角成。△同金に▲2五歩で後手の飛車が詰んでしまい、ここではっきり先手良しとなった。

▲5六桂の催促には△4六角▲同歩△4七角と勝負に来られる順も気になるところ。ただ、本譜の△5三角もリレー将棋らしい辛抱と言える。△2五歩で60手となり、3将の亀にバトンタッチ。いよいよ今年の初陣。

局面は優勢。とにかく慌てないということを確認して、戦場へ向かった。

第3図以下▲1二飛成△4五歩▲5五銀△7四歩▲5三歩成△同角▲5四香△7三角▲6四桂△同角左▲同銀△同角▲5八飛△5六歩▲同飛△6五銀▲5二香成△5六銀▲6一成香△3二飛(第4図)



まずは自然に駒を拾う▲1二飛成。これで後手からは早い攻めがないだろう、という読みだったのだが、△4五歩(▲同銀は△5五角)▲5五銀に△7四歩と突くのが好手順だった。次の△7三角が絶好になる。

▲5三歩成では、▲6四桂△同歩▲6三香△同銀▲5三歩成(変化2図)とするほうが明快だっただろうか。



この順は作戦会議のときに示されていたもので、ただ5六の桂は△4四角や△6四角といった角打ちを消している面もあるので、この筋は場合によっては・・・くらいのニュアンスだった。5五に出た銀も4四と6四に利いているので、△7三角の筋を緩和する意味でも▲6四桂はこのあたりが「出し時」だったかもしれない。

▲5三歩成△同角▲5四香で、角が逃げれば▲5二香成で調子がいいのだが、当然逃げずに△7三角が飛んでくる。このタイミングでの▲6四桂は手順に△同角左と逃げられてしまうので感触としてはかなり悪いが、▲5八飛の活用に期待する。依然として駒得は残っており、後手は左辺の金銀が遊んでいるし、▲5二香成が残っていることを考えると、まだ優位は維持できていると思う。

△5六歩には▲5二香成が自然だったと思うが、△同金▲同竜△6一銀打でいったん後手を引いてしまうのが気になって断念。ただ、後手を引いても問題ない局面ではあったか。

△5六歩▲同飛△6五銀。この瞬間なら▲5二香成が厳しい。今度は△同金なら5六の飛車で▲同飛成と取って受けがなくなる。ただし厳密には▲5二香成ではなく▲5一香成が最善だったか。香成りに△7一金と逃げられた時、香を5一に成っていれば▲5二飛成〜▲6一成香が厳しくなる。

本譜は▲5二香成に△5六銀▲6一成香と進行。将棋を本格的に習い始めた頃に何度も何度も言われたのが「最後の守備金を失ったら防戦不能」で、後手玉なら6一の金、先手玉なら6九の金がそれに当たる。最後の守備金を奪い、勝利まであと一歩。

第4図以下▲7一角△7三玉▲3二龍△同金▲6二角成△8二玉▲7一馬△7三玉▲6二成香△9二飛▲5二飛△4二金▲7二成香△8四玉▲8五銀△同玉▲7七桂△7六玉▲6六金(第5図)まで、先手の勝ち



美濃囲いは7一に角や銀を打って王手がかかれば、まずその時点で寄りと言ってもいい。あとはどうやって玉を捕まえるかだが、▲6二角成△8二玉の時に▲7一馬とせず単に▲7一成香くらいで何の問題もなかった(次に▲7二馬△9三玉▲8三馬からの詰めろ)。本譜は良すぎたせいで余計なことを色々と考えてしまい、少し震えていた・・・と、この場で言い訳しておく。

△9二飛で90手になり、4将のおむすびさんにバトンタッチ。おむすびさんは本局がリレー将棋デビューということだったが、楽な局面で渡すことができて良かった。最後はきっちり最短手順で後手玉を詰まし、快勝で2連勝、予選通過を決めることができた。



長く苦しい時間を乗り越え、歩得の戦果を挙げてバトンを繋いでくれた茉麻さん。秒読みの中、一瞬の隙を逃さずに優位を築いてくれた安倍さん。少し慌てながらも寄り形まで持っていけた自分。緩まずに最後を締めてくれたおむすびさん。いい形でバトンが繋がった一局だったと思う。

終局後の祝勝会。今回は自分も指したので、堂々と乾杯の音頭をとれた。疲れた身体にスーパードライが沁み渡っていって、最高の気分になる。何度でも味わいたい気持ち良さだ。

本戦からは負けたら終わりの一発勝負。気負いすぎず、心にゆとりを持って楽しんでいければと思う。


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