本選1回戦は8月26日、日曜日の対局となった。予選の2局目からは約1か月の間が空き、この間の過ごし方であったりコンディショニングであったりがいつも難しいところである。自分は過去最大級のレポート地獄があったりしてかなり慌ただしくしていたが、対局の何日か前に一通り片付いて、一息ついていた。

前回に続き、対局当日は日中に用事が入っていた。しかも今回は朝から夕方までだったのだが、暑さのためか前日はほとんど眠れず、かなり寝不足の状態だった。それでもなんとか用事をこなし、駅ビルで夕食と祝勝会用のあれこれを買うことに。朝と昼はカツを食べる余裕がなかったので、中華そばと一緒になっている「麺セット」を買い、お酒とつまみはいいものがあまり見つからなかったので、家に戻ってから近所のコンビニへ買いに走った。前回のスーパードライからレベルアップして、今回はプレミアムモルツを購入。

再び家に戻り、少し横になることにした。寝落ちのリスクも決して無視できないのだけれど、疲れと眠気もかなり蓄積されていたので、少しでも良い状態でリレーに臨むことを選択。もちろん、寝落ち対策もしっかりしておいた。

しばらく身体を休めてから起き上がり、買っておいた「麺セット」を食べ始める。・・・ここで異変に気付いた。明らかに豚カツの味とは違う。買う時はまるで気付かなかったのだけれど、よく見ると卵とじの中に赤い尻尾らしきものがあって。

・・・どう見てもエビフライです、本当にありがとうございました。

これはエビのカツなんだ、と必死に思いながら食べたけれど、どうしようもないこの微妙な空気。負けたらこれが敗着、というところだろう。



さて、今回の相手は「sanukiland」チーム。2000点超えのメンバーはいないが、勢いのある将棋で予選を勝ち進んできている。3将は1400点台という点数だが、棋譜を見ると寄せが強そうな印象だった。

今回、我が軍では安倍さんのところに代打で石さんが出ることになっていたのだが、開始40分ほど前に、石さんから開始時間までに帰宅できないかもしれないと連絡が届く。ギリギリになるかもしれないということは前日にも聞いていたので心の準備をしておくことは可能だったのだけれど、どこかで「まあ大丈夫だろう」と勝手に思い込んでいた部分があった。

石さんと連絡をとりあいながら、代打に関する規定や開始時間の調整に関する規定を慌てて確認する。自分は仮にもリーダーなのだから、こういう時に慌てている様子を見せちゃいけない、なんて意識が働いて、表向きには慌てていないふうを装ってはみたのだけれど、果たして上手く装えていたのだろうか。

相手チームと連絡がとれなかったのもあってだいぶ焦っていたのだけれど、1将のもみじさんが2将のところも指し継ぐという形でなんとか落ち着いた。オーダーは1将から、もみじさん→もみじさん→亀→茉麻さん、となる。

だいぶ慌ただしくなってしまった状況での対局開始。この一局はチームとしての真価が問われるのだろうな、と思った(エビフライ事件もあったし)。そういえば組み合わせが発表されてすぐの頃に、安倍さんが似たようなことを話していたっけ。

▲7六歩△3四歩▲6六歩△3五歩▲6八銀△3二飛▲6七銀△6二玉▲7七角△7二玉▲8八飛△8二玉▲5六歩△7二銀▲4八玉△1四歩▲1六歩△3六歩▲同歩△同飛▲3八銀△3四飛▲3九玉△3六歩(第1図)



前局に続いて先手番。

ここまでの2局は相手の振り飛車に居飛車で対抗していて、今回も相手は振り飛車の可能性が高いという分析だったが、今度は相振り飛車を志向することにした。▲向飛車対△三間飛車は最もポピュラーな組み合わせの1つ。

▲5六歩は、次の▲4八玉に△3六歩▲同歩△5五角の筋を消したもので、囲いの選択には含みを持たせることができる。ただし▲5六銀と活用する味がなくなるので、損得は微妙か。▲5六歩に代えて▲2八銀や▲3八銀、▲3八金など、先に囲いの形を決めるのもあるところ。

△3六歩▲同歩△同飛に対して、すぐには▲3七歩と打たない、というのがよく言われている相振りのコツ。▲3八銀〜▲3七銀と矢倉にして盛り上がる含みを残しておくことで、後手の駒組みを牽制することができる。

▲3七歩を打たないのなら、と後手は△3六歩の垂らし。この歩が拠点として働くか、逆に先手から目標にされて負担になってしまうか。ここが形勢の分かれ目になる。

第1図以下▲8六歩△3三桂▲6八角△1三角▲同角成△同香▲4六角△2四歩▲3五歩△4四飛▲4八金△5四歩▲8五歩△4二銀▲7五歩△6四角(第2図)



△3六歩の垂れ歩を無効にするためには、▲5八金左〜▲4六歩〜▲4七金として、そこから▲3七歩△同歩成▲同銀としたり、▲2六歩〜▲2七銀でタダ取りを狙ったりすることになる。ただ手数がかかってしまうので、取りきる前に攻めの態勢を整えられそうだ。▲5六歩と▲1六歩の2手が▲5八金左と▲4六歩に替わっていれば△3六歩は無理筋だったと思うが、このあたりは相手の好判断だった。

ただ、この拠点の活かし方が問題だった。△3三桂と跳ねて次の△4五桂を狙い、▲6八角に△1三角とぶつけたのは、相手の棋風通りの勢いある指し回しだが、この場合はやや「軽すぎ」となってしまった気がする。本筋は、△4二銀〜△3三銀〜△4四銀〜△3五銀と、銀でこの拠点を支えにいく指し方だろうか。△4二銀に▲6八角△3三銀▲3五歩△5四飛(変化1図)となっても、3五の歩は後で△1三角〜△2四銀で取られてしまいそうだ。



本譜は△1三角▲同角成△同香のところで30手になり、作戦会議(2将も引き続きもみじさん)。ここで示された▲4六角が好手だった。以下▲4八金の局面まで進んでみると、後手から思わしい手がない。金銀を前線に出すことがなかなかできないので、3五の歩を取り払うこともできなければ、パンチ力のある攻めを繰り出すこともできないのだ。見ている時はあまり自信の持てない展開かと思っていたのだが、このあたりで急に視界が開けてきたように思えた。

△5四歩で飛車の横利きが止まったのを見て、▲8五歩〜▲7五歩と伸ばすのが単純ながら厳しい。次に▲7四歩が入っては潰れてしまうので、△6四角は苦肉の策といったところだろう。

第2図以下▲6四同角△同歩▲2三角△5二金左▲1二角成△6五歩▲同歩△4五桂▲1三馬△5七角▲同金△同桂成▲4六香△同飛▲同歩△4七香(第3図)



後手の主張点は自分だけ角を手持ちにしていることだったので、△6四角と打つのは辛いところ。先手は再び角を手持ちにして馬を作り、好調な流れである。

△4五桂に対しては▲4六歩と突きだして催促するのが、抜群に感触の良い手だったようだ。以下△3七歩成▲同桂△同桂成▲同銀で、次に▲4五歩と飛車を詰ます手が残る。

本譜、△5七角に▲同金と取った時には検討盤で悲鳴があがった。自分は取る手は1秒も考えていなかったのだが、次の▲4六香を見て納得。ただ△4六同飛▲同歩△4七香の局面は感覚的には相当にいやらしいところで、この順に躊躇なく飛び込んだのがもみじさんのファインプレーだった。

第3図以下▲1一飛△4八香成▲同飛△同成桂▲同玉△8七飛▲7八銀△3七歩成▲同桂△8五飛成▲1四馬△7五龍▲6四桂△6二金寄▲7二桂成△同金上(第4図)



第3図で▲5九金や▲2八玉などと指したくなるところ、堂々と▲1一飛も好判断。後手の攻めは足りないと見ている。△4八香成▲同飛△同成桂の局面で60手となり、3将の亀にバトンタッチ。もみじさん、相手のお株を奪うような強気な指し回しで、見事に大役を果たしてくれた。

▲4八同玉に△8八飛▲7八銀△6七金は▲7九金で切れ筋。本譜の△8七飛にも▲7八銀がぴったりで、△5七金の王手は▲3九玉でそれ以上続かない。△3七歩成▲同桂を利かしてからの△8五飛成は次に△3六歩を狙った工夫の順だが、▲1四馬の活用がぴったりになった。

△7五竜の局面、当初の予定では▲6八香などでゆっくり指すつもりだったのだが、不意に▲6四桂と攻めに出た。ちゃんとした根拠があるわけではなく、その局面を見ていたら▲6四桂のほうがいいような気がした、というのが正直なところ。結果的にはこの判断が吉と出た。

▲1四馬のあたりでは、検討盤では「2巡目の2将もある(150手超え)」という話になっていたようだし、自分も長くなりそうだと思っていた。けれども、4将の茉麻さんにまわることはなかったのだ。もみじさん→もみじさん→亀、の会心の「2人リレー」が完成する。

第4図以下▲8四歩△同龍▲8七香△7四龍▲8五銀△6五龍▲8四歩△6一歩▲8三歩成△7一玉▲8二角△同金▲同と△同玉▲7四銀△8五歩▲8三歩(第5図)まで、先手の勝ち



▲8七香〜▲8五銀と、竜をいじめながら手順に玉頭へ重くのしかかる。1一の飛車とサンドイッチ状態になっているので、▲8四歩の玉頭攻めを後手は支えきれない。▲8三歩成に△同金は▲8四歩、△同玉は▲7六銀の王手竜取りが決まる。

と金を取らずに△7一玉は考えていなかったので少し戸惑ったが、20〜30秒ほどで▲8二角の筋を発見。慎重に慎重に確認する。読み抜けがないか、逆王手で逃れたりしていないか・・・。

▲8三歩は89手目、玉を逃げれば4将にバトンタッチだったが、相手はここで投了した。ほとんど何から何まで予想外だった一日は、狼・大生連合軍の快勝で幕を閉じた。



終了後すぐ、石さんに「勝ちましたよ!」と速報を送った。来られなかった石さんのためにも、そしてエビフライ事件を「負けフラグ」にしないためにも、是が非でも勝ちたい一局だった。そして困難な状況を乗り越えて勝利を掴んだことで、個人的にも、チームとしても、また少したくましくなれたように思った。

一日中頑張って疲れ果てた身体と脳を、プレミアムモルツが優しく癒してくれる。言葉では言い表せないような満足感でいっぱいだった。


inserted by FC2 system