後悔している自分と、これで良かったんだと思っている自分がいる。自分はどうすれば良かったのか、どうするのが最善だったのか。

答えは『今』も分からない。答えの出ない問いに、それでも答えを求めて、立ち向かって。きっとそれが将棋というゲームなのだろう。



4年ぶり2回目の、準決勝の舞台に帰ってきた。対局日は9月29日。長く暑かった夏もようやく出口が見え始め、少しずつ気温も下がってきていたところだったが、この日は再び気温が上がった。

この日は特に予定らしい予定はなくてのんびり過ごしていたのだが、夕方に半ば無理やりに予定を作った。4年半乗ってかなりボロボロになっていた自転車の買い換え。そして新しい自転車に乗って(ほんの数分の距離だけど)ほか弁に夕食を買いに行く。しまさんの地元名物の「かつめし」を買ってみた。初めて食べたがなかなか美味。


さて、準決勝の相手は「AAST2116」チーム。1300〜1900点弱のメンバーが揃っているバランス型のチームだ。狼・大生連合軍は安倍さんのところに石さんが代打で入り、1将から茉麻さん→亀→石さん→もみじさんのオーダー。点数のリードが最も大きい自分のところ(相手は1600点台)がポイントになりそうかな、と思った。

▲7六歩△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七角△3四歩▲6六歩△6二銀▲6七銀△5四歩▲5六歩△5二金右▲4八銀△4二玉▲5七銀△3二玉▲7八金△4二銀▲6九玉△7四歩▲2六歩△3三銀(第1図)



狼・大生連合軍の後手番で対局開始。▲7六歩△8四歩▲6八銀は矢倉模様の出だしだが、相手は相居飛車では雁木を多用している。それを踏まえて△8五歩もさっさと決めてしまう(相矢倉では△8五桂から攻める余地を残すために飛車先を保留するが、雁木は7七に銀が来ないので飛車先保留のメリットは少ない)。

第1図まで、お互いに無難な駒組みといったところだろうか。△3三銀は、機を見て△3一角〜△8六歩を狙っている。

第1図以下▲6五歩△4四歩▲6六銀右△4三金▲5八金△3一角▲7九玉△1四歩▲1六歩△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲8七歩△8二飛▲3六歩△4二金上▲8八玉△9四歩▲2五歩△9五歩(第2図)



▲6五歩〜▲6六銀は、雁木における一つの好形。二枚落ち下手の「銀多伝」もそうだが、銀が縦に並んだ形は好形(銀の弱点である脇腹を互いの銀がカバーし合っている)で見た目にも美しい。△4四歩〜△4三金は中央を厚くする意図で、▲5五歩のような仕掛けに備えている。そして△3一角で、いつでも△8六歩から飛車先を切る権利を得た。

△1四歩で30手になり、2将の亀にバトンタッチ。構想力が問われそうな、難しい局面だ。

▲1六歩に対し、作戦会議中に「分かりやすく攻めたいなら」ということで示してもらった△8六歩を決行。手順に角交換と飛車先を切ることができたのは大きなポイントだろう。囲いのほうは、△2二玉〜△3二金とする通常の矢倉は将来▲4一角などの打ち込みが気になるので、△4二金直とバランス重視の「片矢倉」に組む。

△9四歩〜△9五歩と端を詰めつつ様子を見て、さてどこから手を作っていこうか・・・と考えていたのだが、第2図から相手が先に動いてきた。

第2図以下▲3七角△7三銀▲5五歩△同歩▲同角△5六歩▲3八飛△5二飛▲5六銀△6四歩▲同歩△同銀▲同角△5六飛▲6七銀△5一飛(第3図)



▲3七角。読んでいなかった手だが、第一感はありがたいかなと思っていた。一方的に角を手放す割には、そこまで大きな効果はなさそうに見えたから。対して、「打った角を目標にして負担にさせる」という意味では△9二飛とかわすのも有力だったようだが、利かされている感じが嫌だなと思い、約3分の長考の末に△7三銀。

▲5五歩△同歩▲同角のところで再び手が止まった。第一感は△5二飛。いわゆる「歩がぶつかったところに飛車を持ってくる」という手で、どちらかといえば振り飛車感覚の手だと思う。秒読みだったらおそらく△5二飛と指していたと思うのだけれど、まだ少し時間が残っていたことで色々なことを考えてしまっていた。

「練習将棋でたまに居飛車を指した時、振り飛車感覚で指していつも痛い目に遭っていたなあ」とか。そして、「8二の飛車がせっかく玉頭を睨んでいるのだから、5筋にもっていくのは損になるんじゃないか」。そして、「相手の点数との兼ね合いを考えると、できれば自分のところでリードを奪いたい」。

・・・そうした葛藤の末の△5六歩。指し過ぎだった。▲同銀なら△5四歩▲3七角△3九角の狙いだが、▲3八飛とされると今度は▲5六銀と取られて何も起こらないので、忙しくなっている。△5二飛〜△6四歩は非常手段といった感じだが、全て冷静に対処される。

第3図の△5一飛で60手になり、3将の石さんにバトンタッチ。△5六歩に対する後悔はありつつも、自分なりに考えて出した結論なのだから仕方がないとも思う。それに、客観的には後手が苦しいかもしれないが実戦的にはむしろ後手が勝ちやすい展開なのではないかと思っていた。

第3図以下▲9一角成△6五歩▲7七銀△4九銀▲5七香△5四歩▲4八飛△5八銀成▲同飛△6六金▲6八銀打△6七金▲同銀△6九銀▲6八飛△7八銀成▲同銀△9三桂▲7三馬△6一飛▲7二馬△8五桂(第4図)



▲9一角成で香損だが、手番を活かして△6五歩〜△4九銀と攻めかかる。この攻めがあるから実戦的には後手がやれるのではないかと思っていた。・・・しかし▲5七香の好打が見えていなかった。飛車の取り合いは先手玉のほうが遠いのでまずい。△5四歩と打つしかないのでは一気に辛い形になった。

半分は結果論だが、△4九銀のところでは△6九銀と反対側から割打ちするのが勝ったかもしれない。▲5七香に対しては△7八銀成(変化1図)。▲同銀には△5六歩があるし、▲同玉ならかなり薄くなるので先手も苦労することになりそうだ。



本譜、石さんは懸命に手を作りに行くが相手の対応は冷静そのもの。並みの相手なら、攻めの迫力とリレー独特のプレッシャーに飲まれて対応を誤ってしまうところだが、これが準決勝まで勝ち上がってくるチームの強さということだろうか。

第4図の△8五桂は勝負手だが、飛車を見捨てるのであれば直前の△6一飛では△7一飛としてみたかったかもしれない。以下▲8二馬ならそこで△8五桂。飛車を取らせた時、馬の位置が6一と7一では後手玉への響き方が全く違ってくる。

ただ、△7一飛には▲8四馬と引かれるかもしれない。これは△8五桂を封じられた上に次の▲9三馬が飛車取りになってしまう。このあたりはもう、厳密な正解は分からない。

第4図以下▲6一馬△7七桂成▲同桂△6六銀▲5八金△7五歩▲6五桂△5七銀成▲同金△7六歩▲7二飛△7七金▲同銀△同歩成▲同玉△7六歩▲6七玉△5九角(第5図)



第4図で▲8六銀などと逃げるのは△6六角がうるさい。▲6一馬はしっかり見切られている感じだ。

△6六銀に対する▲5八金を見て、もう何手か弱気になってもらえればもしかしたら・・・と思ったのだけれど、△7五歩に対する▲6五桂が冷静で、ぴったりの手だった。△5七銀成で90手になり、4将のもみじさんにバトンタッチ。

△7六歩のところでは△7七香と捨ててスピードアップを図りつつ相手をびっくりさせるような勝負術もあったかもしれないが、冷静に対処されてさすがに届かなそうか。

▲7二飛と打たれた形が相当に危ないことは、作戦会議の時にそれとなく気付いてはいた。ただ、それを言い出せなかったというべきか、敢えて言わなかったというべきか・・・受けようと思っても受かるものではなくて、相手が寄せに気付かないということが逆転の条件だから、それなら自玉のことは考えずに開き直って攻めた方がいい。ぼんやりとそんな感じのことを考えていた気がする。こんな時どうするべきなのかというのは、かなり難しい問いだと思う。

もみじさんは△5九角と打って下駄を預けた。相手は寄せが見えているのかどうか。その答えが返ってくるまでの約40秒の間、自分は何を思っていただろうか。はっきり覚えていないということはきっと、ただただ無心で奇跡を祈っていたのだろう。

第5図以下▲4三馬△同玉▲5三金△3二玉▲4二金△同銀▲2二金△同玉▲4二飛成△3二香▲3一銀△1三玉▲2二銀打△1二玉▲1一銀成△同玉▲2二金(第6図)まで、先手の勝ち



詰み筋を慎重に確認するかのように、40秒ほど使って指された▲4三馬を見て、観念した。以下は手数は長いが追い詰めとなる。

リレーでは特別珍しいことでもないのだけれど、負ける側は最後の一手詰めまで指し続ける。淡々と進められているように見える終局までの儀式には、指している人の、そしてチームみんなの色々な想いが詰まっていると思う。だからこそ、一手詰めまで指すことが「みっともない」でも「カッコ悪い」でもなく、「美しい」と思えるのだろう。

▲2二金までの収束は、相手が指した手順ではあるけれども、狼・大生連合軍の今年最後の一局を飾るのにふさわしい詰みだったと思う。



4年前と同じく、準決勝で涙をのむ結果となった。

4年前のことを思い出すと・・・感想戦中や感想戦終了後しばらくは、放心状態だった。悲しいとか悔しいという感じでもなく、何も考えられなかった状態。その時に比べると今年は、悔しいという気持ちが大きいように思う。自分なりに、そしてチームとしてもベストは尽くせたと思うけれど、その上で負けたことは悔しい。悔しいのはきっと、決勝に行けるだけの力が自分たちにはあると思っているから。地に足がついた戦い方ができたから。

そして・・・悔しいと思えるから、次に向けてまた頑張れる。

リレーを精一杯楽しむことが第一のゴールなら、第二のゴールは優勝することだろう。近くて遠い第二のゴール。そこを目指す旅は、これからも続いていきそうだ。


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